自分に出来ない事など、絶対に相手には強要しない。やれあれをするなこれをしろだなんて、なんて女々しい事。そんな輩は一人残らず喉元掻っ切ってやる。 「確かに強要はしない。けど押し付けはするわよ」 「おいおいそりゃあどっちも同じじゃないか」 死体の山を築き上げ、血の海を足元にその場に不釣り合いな会話を繰り広げる二匹の兎。しかし一頻り敵を倒したとは言え、此処は戦場。まだ見えずとも再び敵が押し寄せて来るのがピリピリと肌に感じる。 「違うわよ。強要はただの嫉妬。だけど、押し付けは可愛い愛情よ」 「ハッ、良く言うよこのスットコドッコイ」 やれやれと肩を落とす阿伏兎。至極楽しげに笑みを湛える雪乃。どちらも常人ならばとっくに倒れている出血。夜兎だとてこれ以上の戦闘は厳しい程の負傷。しかしどうもまだ戦いは終わりそうもない。本当、呑気に会話などしている場合では無い。 「それに、押し付けられたものならまた他の人に押し付け返せば良いだけの事」 「違いねぇ」 ニヤリと互いに口端を釣り上げ、番傘を握り直す。気付けば再び敵が周りを囲んでいた。 「あーあったくやんなっちゃうわ。次から次へと沸いてきて」 「そう言うなって」 「大体、団長は数だけはやたら多い雑魚を私達に押し付けて、自分は美味しい敵と戦って狡くない?」 「仕方ねぇだろ。上司のケツ持つのが部下の役目なんだからよ」 阿伏兎はガシガシと髪を掻きながら私に背中を預ける。そして私も敵に向き直り阿伏兎に背を預けた。 「でも、ま、今回ばかしは押し付けられた仕事を押し付け返しますか」 流石にこの数を二人で殺るのは、いくら残業代を貰っても全然足りない。少しは部下を労れコノヤロー。そう悪態を吐きはするが阿伏兎も私も笑顔のまま。 「もちろん…?」 そう分かりきった質問を遇えて彼に投げかけるのは戦闘開始の合図の為。 「「死体の山として」」 声がハモったと同時に地を蹴り傘を振るう。 落雷と涙雨 (どうせピンク頭に何発文句の雷落としたって) (その後、阿伏兎が泣きをみるのだって) (それを見て私が笑うのだっていつもの事) ---------- 2009,10,04 |