数刻前、己が頭高杉晋助が出掛けて行ったかと思えば入れ違いに何とも変な女がやって来た。 「すみませーん、晋助いらっしゃいませんか?」 どうやってあの厳重な警備を抜けて来たのか知らないが、この女は涼しい顔をして戦艦の入口に立っている。 「ちょっ貴様、なんなんスか!?一体どうやってここまで来たんスか!」 「おかしいわねぇ…ちゃんと今日行くって連絡しておいたんだけど…」 「オイ、人の話聞いてるっスか!?」 拳銃を額に充てらているなも関わらず平然と会話をするこの女…ただ者じゃない。 「すいません、晋助はいつ頃帰って来ますか?」 「貴様一体何しに来た。幕府の者っスか」 「あ、お茶菓子持って来たんで皆さんで食べてください」 にっこり笑って目の前の女は紙袋を差し出す。前言撤回。会話なんて成り立っちゃいない。そもそも言葉のキャッチボールが出来ていない。挙げ句、こちらが完全に戦闘態勢に入っているにも関わらず呑気に茶菓子を手渡してきた。それをまた子は手で払いのけたが、隣りの万斉が「かたじけないでござる」と受け取った。 おいこら万斉、何受け取ってやがる。 睨み付けると案の定、鼻の下を伸ばしてニヤニヤしている。いや、確かに綺麗な人だけど。 「あーもーいい加減にするッスよ!さもないと…」 そう言ってまた子が拳銃の安全装置を下ろしかけた時 「オイオイ、表のアリャァなんだァ?なんでみんな伸されてやがる」 煙管を吹かせながら我等が総督、高杉晋助が帰ってきた。 「あ!やっと帰ってきた!ちょっと晋ちゃん、今日逢いに行くって私、言ったわよね?」 そう言って、拳銃を向けられているにも関わらずその女はパッと振り返ってズンズンと高杉に歩み寄って行く。 「ちょ、お前止まるッス!」 「やめろ来島」 「なんで止めるッスか」 「コイツァ俺の…」 そう言い掛けた高杉の声を制して、女はくるりと再びこちらを向き直し 「いつもウチの晋助がお世話になっております。ワタクシ、高杉雪乃と申します」 と、これでもかと言うほど満面の笑みで女はお辞儀をした。 「「「はァ!?」」」 そこに居た全ての人間が同時に声を上げた。 「まァそう言うこったァ。取り敢えず来島ァ、茶でも用意しろ」 そう言って高杉と女は船の中に入っていった。 その後、高杉は茶と菓子の用意が出来たら自室に持って来いと言い付けられ、来島は給仕所に向った。そんなやり取りを聞いていた女…いや、雪乃は気を使うななど高杉に言っている。 「この二人、徒ならぬ関係なのでは…」 「いや、苗字が同じ所を見るともう……」 「そ、そんな素振り一度も無かったッスよ」 茶の用意を給仕所でしているまた子ら三人はヒソヒソとそんな事を話していた。しかし、そんな会話がされているとは知らず知らず当人らは渋い顔で会話をしている。 「女遊びもいいけど、京に来たなら一回くらい家に寄りなさいよ」 「ククク、なんだァ?嫉妬かァ?」 「そうじゃないわよ。全く、顔出せって言ったって一回も来ないんじゃ、こっちから晋ちゃんの所に行くしかないでしょ」 そう言われた本人は、素知らぬ顔で煙管を吹かしている。 「もー晋ちゃん、ちゃんと人の話…「オイ雪乃、その呼び方やめろって言ってるだろ」 黙って煙管を吹かして居た高杉が口を開いたかと思えば、ムスッとした顔で言いかけの言葉に被せてきた。 「だったら晋ちゃんもちゃんと私の事呼びなさい」 そうニッコリ言い換えしてやると、苦虫を噛み潰した様な顔で舌打ちをする。 「ほら、舌打ちなんてしない!大体たった一人の……」 「あーあーわぁったよ!呼びゃァいいんだろ‥…ッ姉さん!」 フフやっと呼んだ、など雪乃が嬉しそうに笑って居ると 「「「姉さん!?」」」 と三人の声が同時にハモったかと思えば、襖の間から万斉、また子、武市が雪崩れ込んで来た。 「アァ?てめぇらなに出歯亀してやがる」 恥ずかしい所を見られたとでも言う様に、心なしか顔が赤い高杉。まあこんな些細な事に気付くのは姉である自分くらいだろうけど。 「あらあら、みんなおそろいで」 クスクスと上品に笑いながら「もしかしてコレかと思ったの?」と小指を立ててみせる。それを尻目に「馬鹿か」と呆れた様子の高杉。 「そんなに似て無いかしら?これでも子供の頃はそっくりだったのよ」 今でも似てると思ってたんだけど、と雪乃はクスクスと笑う。 はじめまして、姉です。 泣く子も黙る鬼兵隊。 それを束ねる男の姉は、少々変わっているようだ。 ---------- 2009,10,24 |