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喧嘩の不始末



「て、敵襲ー!敵襲ーッ!!」


けたたましい警報音と共にバタバタと団員らが廊下を行き交う。


「何だ何だ騒がしい」


宇宙海賊春雨の宇宙船、それもこの第七師団の船に喧嘩を売ってくる者はよっぽどの強者か命知らずの馬鹿か、そのどちらかだ。往々にして後者の場合が殆どなのでそれ程騒ぎ立てる必要は無いだろう。まぁ、仮に前者の場合でも心配点は敵に対するものではなくむしろ己の上司、第七師団団長に対する心配だ。そんな事を考えながら慌ただしく駆け回る団員を余所に、阿伏兎はガサガサと面倒臭そうに後ろ髪を掻きながら廊下を歩いていると、血相を変えた部下に呼び止められる。


「あっ阿伏兎さん、た、大変なんです…!」
「敵襲だろ、ンな騒ぐ事ァなねえだろう」
「そ、それが、有り得ない程強くて……」
「ほぅ…それで人数は?」
「一人…です」
「……は?一人!?」
「はい……」


申し訳なさで小さく縮こまる部下を前に阿伏兎はポリポリと頬を掻く。こりゃあ相当強くて且つ、大馬鹿者らしい。その考えと共に何故だか一瞬団長の顔が頭を過ぎり、正かな…と苦笑いを零す。
しかしその数分後、己の目を疑う様な光景に出くわすとは誰が想像出来ただろう。


「ま、取り敢えずウチの戦闘狂が出て来て敵さん以上に船を破壊しちまう前に俺達だけでなんとかしちまわねぇとな」


全く本当に厄介だ。キリキリと胃が痛むのを感じやれやれと溜め息を吐いてから朱色の番傘を握り直せば、一変してその表情は好戦的な獣と化す。そして薄くニヤリと口端を上げた時、目の前数メートル先の通路の壁が粉々に破壊されピンク色の髪と、"ピンク色の髪"が吹っ飛んできた。つまりピンク色の髪が二人現れた事になる。


「は、い……?」


久々の戦闘だと息巻いて番傘を肩に担ぎ上げたまま、阿伏兎は何とも間の抜けた声を出す。


「こりゃァどうした事かね…」


もくもくと立ち上る煙りの中には、確かにピンク色の頭が二つ。柄じゃないのを承知で目をパチクリとしばたたかせるも、どうやら眼疲労からくるぼやけでも心労からくる幻覚でも無く、本当に二人居るらしい。


「おいおい勘弁してくれよ…」


あんなのが二人になっちまったらいよいよ胃に穴が空いちまう、とヒクリと左頬を引き攣らせ事態の収拾に思考を巡らせようとした時だった。


「イタタッ、ちょ、本当勘弁してヨ」
「何か、言ったかしら?」
「地球に用があったからそのついでに、ほんのちょっと挨拶しただけだって!」
「ほんのちょっとの挨拶で、どうして腕が折れて掌に穴が空くの、よっ!」


言うが早いか凄まじい蹴りが再び壁を粉砕する。


「一体何がどうなってんだ」


会話を聞く限りではウチの団長、神威ともう一人は女のようだ。


「喧嘩するなとは言わないけど、手加減ってものがあるでしょう!」
「俺、弱いヤツは嫌いなん――――「何か言ったかナ…?」
「いえ、ナンデモナイデス」


徐々にクリアになる阿伏兎の視界にはそっくりな風体をした人物に胸倉を掴まれた神威の姿だった。そこでふと、一度だけ会ったであろう人物を阿伏兎は思い出した。


「こいつァもしかして、もしかしなくても……」



喧嘩の不始末



「神威、歯ァ食いしばりなさい」


そう言って拳を振り上げながらニコリと背中に嫌な汗を掻く笑顔を見た瞬間、それは確信へ変わる。確かあの時は顔を布で隠していたからすっかり忘れちまってたが―――――


「姉って恐ェ……」


避けるのは無論、防ぐ事も出来なかった鉄拳は見事に神威の左頬を腫らした。


(阿伏兎さん、いつもウチの弟が迷惑掛けて本当にすみません…)
(い、いえ。とんでも)


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2011,04,15