「おーい団長ー、今日は新しい補佐が来る日だから大人しくしといてくれよ」 「えー」 「「えー」じゃない、このすっとこどっこい。頼むから殺さないでくれよ……」 「ハイハイ」 「、ったくどうだかなァ…」 阿伏兎は一抹の不安、と言うか完全な不安で今から胃がキリキリと痛みだす。それでもまぁ、出会い頭の神威の攻撃で死ぬ様なヤツならどの道これから先使えない事には変わり無い。だったら死んでくれた方が良いか、と思っている自分に苦笑。 (団長が団長なら部下も部下、か) 夜兎族が大多数を占める戦闘集団の中に放り込まれてくるんだ。それなりの覚悟と強さはあるはずだから問題は無いとは思うが、な…… 同時刻、第七師団の母艦に到着した馨は白地に黒檀と金箔で柄の描かれた羽織りを肩に羽織り、朱や藍や瑠璃色で牡丹が描かれた極彩色の着流しを右肩だけを着た状態で、その裾をたなびかせ船内の通路を迎えに来させられたであろう第七師団の部下数名に連れられ、堂々と闊歩していた。 最初こそギョッとした表情をし次に女と認識すると舐めた態度を見せたが、自身が乗ってきた宇宙船を徐にスッパリと刀で破壊した後「で、団長様は?」とニコリと問えば、瞬時に空気が張り詰め出迎えの内の数名がそそくさと案内に出た。まるでそのニコリと笑った馨の笑みが何を含んでいるのか知っているかのように、畏怖と緊張が走る。 実際、彼等はその意味を知っているし、更にその元凶ともなる者のソレと重ね合わせ二重の意味で恐怖と死を感じていたのだが、そんな事情など馨はまだ知らない。ただ、彼等の行動は彼女の中で中々高く評価されたと同時に彼等もまた命拾いをした事に気付いていない。何せ、この笑みが理解出来ない低脳で莫迦な集団ならば、分かりやすい簡単な脅しとして数名を残し、他を皆殺しにする算段だったのだから…… 程なくしてただっ広い広間に着く。 そこにはピンク色の髪を三編みにしてニコニコと笑っている男と、その隣りで気怠さを隠そうともせず鈍い金色の髪をボサボサと掻いている男が居た。多分、このニヤニヤ笑いの少年の方が団長だろう。 「やぁ、キミが新しくウチの団に配属された団長補佐?」 「女じゃねぇか。おい団長、手荒な真似は――――」 阿伏兎の声は二人の前まで歩み寄り目の前で"口 だ け は"丁寧な挨拶をした馨の声と行動によって掻き消された。 「どうもはじめまして、元第六師団団長、片桐馨です―――」 穏やかな口調とは裏腹に並の者では攻撃されたことすら気付けない速さで神威に向け抜刀する。踏み込んだ支脚の靴底から摩擦で煙りが上がる。 迎撃と反撃 本能で危険を察知した阿伏兎は馨に向け番傘を振るう。神威はニヤリと笑みを見せると数センチ首を傾げ、向かってきた刀の切っ先を躱す。勿論、殺気の篭った拳を振りかざしながら…… ((くだらないヤツなら殺すまで)) ---------- 2010,06,24 |