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奇跡と言う希望は存在しない



「どうして冷静で居られるの!?タイガーが心配じゃないの…!?ねぇ、セラ!」
「辞めなさいブルーローズ…!」


開発室に乗り込んできたカリーナをネイサンは止めようとするが、詰め寄る彼女を責める資格も振り切る資格も私には無い。
若者に無情な大人だと思われてしまうのは仕様の無い事。


「セラが一番心配してるに決まっているじゃない」
「じゃあ…、じゃあどうして直ぐに病院に行かないのよ…!」


溢れ出しそうな涙を気丈に堪えながら責める姿は、同じ男を惚れた女として当然の行動。
録画映像を止め、席を立つ。


「私にはメカニックとしての責任があるから…それらを放り出して病院に駆け付ける事は許されないし、何より私自身がそれを許さない」


次の戦いが明け方まで延びたとは言っても時間は足りない。
ジェイクとの戦闘映像をチェックし能力は勿論、攻撃後に出来る隙が無いか戦闘の癖はないか何度も見直しデータ化して。また、それと平行して可能な限りバーナビーのスーツを強化しなければならない。
それらを投げ出す様な真似など、そんなこと出来る訳が無い。


「そんなの知らない…!大切な人が死んじゃうかもしれないのよ!?」
「っ……、これ以上私の大切なヒーロー達を傷付けさせる訳にはいかないの…!」


予想に反して声を荒げてしまった。
空気が一瞬、停滞。


「ごめん、…なさい。貴女にこんな事まで言わせて…。でもタイガーは、きっと…大丈、夫」


カリーナの体を引き寄せぎゅっと抱きしめる。


「タイガーは残される側の辛さを知ってるから大丈夫。それに十年以上もそれこそおじさんになってもヒーロー続けてる位しぶといんだから、こんなこと位じゃ死なない。死ぬわけない」


多分、これは自分に言い聞かせているんだ。
大丈夫だ。絶対に"もしも"だなんて起きない。大切なものを遺して先にいったりしないんだ、と。


「それにまだタイガーは負けてない。だってバディが、バーナビーがいる。そうでしょ?」


タイミング良く丁度現れたバーナビーに視線を投げる。
普段以上に固い表情は緊張と興奮、後悔と自責からだろう。


「斎藤さんが僕と貴女を呼んでいます」


眉間にシワを寄せながらそう一言告げる。


「分かった、ありがとう。すぐ行くわ」


嘘吐きの笑顔。
辛いのは皆同じ。なら、私は最後まで笑顔でサポートし続けなくては―――――
カリーナの両頬にキスを交わし薄手のカーディガンを手渡す。


「少し、休まないといざって時に体力持たないからドラゴンキッドと一緒に仮眠をとった方が良い」
「、うん。そうさせて貰うわ」



奇跡と言う希望は存在しない



「もっとスーツの強度を上げていればICUに運ばれる程酷い裂傷を負わせずに済んだ…ッ」


デスクが凹むほど強く拳で叩く。


「だから次は…っ、次の戦いまでには出来るだけスーツの性能を上げる努力をしなくちゃいけない。だから、私は病院には行けない……、行かない…っ」
「セラ、アナタ……」


ネイサンは大きな手で、赤く晴れた手の甲を優しく包みそっと力強く肩を抱く。


「ごめ、ん……ネイサン…っ」


目頭が熱くなって、視界がぼやける。
泣かないって決めていたんだけどな。


「ちょっと、だけ…あと二分だけ…こう、してても良、い……かな」
「えぇ、勿論」
「ありがと、う……」


二人きり。
私とネイサンだけしか居ないのを良いことに、少しだけ彼女の胸を借りて震える息を深呼吸。
貴方の大事な相棒は私がちゃんとサポートするから。だから早く帰って来て、ワイルドタイガー――――


(All good things must come to an end.)
(全ての良い事には終わりがある)


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2011,06,23