ヒーローの命とも言えるヒーロースーツ。 所詮は見世物、一番重要なのは見た目だと言われているが、私も斎藤さんもメカニックとして何よりも重きを置いているのは勿論、防護性。市民の命と平和を護るヒーロー達の命を預かって居るのだから当然だ。 防火性、衝撃吸収、強度――――あらゆる面で最善、最良を尽くして来たが矢張りお偉方はデザイン重視、ヒーローの身の安全は二の次思考が強い。ヒーロースーツの開発は司法局管轄故、上との衝突はしばしばあるがそれでもこの時程己の非力さと実力不足を悔やんだ事はない。 「……っ、う、そ…スカイ、ハイ…、ロック…バイソン……」 モニターに映し出された光景に言葉を失う。 象徴的に吊るし上げられた風の王。 いとも簡単に潰された猛牛戦車。 悲痛と絶望の色が不吉にヒーロー達を侵食。 「タイガー……」 顔を見れば分かる。 叱られた子犬の様な寂し気な目。後悔を噛み殺した唇。己を責める握り拳。また、何か自ら背負い込んだ背中。 彼と、バーナビーと何かあったのだと。 「セラ、準備を頼む」 「、分かった」 震えるな、手。 前を見ろ、私。 控室を出てトランスポーターに向かう。そこに勿論バーナビーは居ない。 「俺…またやっちまった……俺の悪い癖、だな」 アンダースーツが浮かび上がらせるしなやかな筋肉。たくさんのものを守り、背負ってきた彼が負けるはずがない。 「まァたバニーの事怒らせちまった」 手の甲に敬愛のキス。 何度でも立ち上がりどんな敵にも諦めずに立ち向かい続ける貴方を私は尊敬している。 「心配でつい…余計な事しちまった、」 掌に懇願のキス。 必ず勝って帰って来てと、でも負けても良いから無事に帰って来てと我が儘な願い。 「信じて無い訳じゃ無かったんだ。いや…信頼、してやれなかったんだな俺は……」 指先に賞賛のキス。 正義の壊し屋ヒーロー、ワイルドタイガーは誰よりも強い。そうでしょ? 「間違えたのならまたやり直せば良い。信頼が崩れたのなら絆を結び直せば良い」 最後に掴んだ指先を目線の高さまで持ち上げ、そっと薬指の指輪にキス。 「大丈夫、"私達"が付いてるから」 ちゃんと笑顔で送り出せているだろうか。 くしゃりと頭に乗せられた手が髪を滑り落ち、懐かしむ様に毛先にキスを落とされる。 「いってくる」 「いってらっしゃい」 希望で塗り固めた絶望 現実は驚く程、残酷。 涙を零さず、声を上げず、目を反らさず。一方的に嬲られるヒーローをモニター越しに見続ける事が、私に出来る精一杯の意地だった。 強く握られた掌には爪が食い込み、白く変色。 胸元のペンダントに自然と手が伸びる。 (It’s easier to say than to do.) (言うはた易く行なうは難し) ("………ごめんな、バニー…") ---------- 2011,06,22 |