ウソと嘘
「ティキって考古学者なんだ!」
目を輝かせながらレイラは言った。
我ながら何ともちんけな嘘を吐いたものだ。
もしロードの奴がこの会話を聞いていたら間違いなく
「へぇーティッキーが考古学者。アハハハハ!小学生レベルの算数すら解けないくせにぃ」
って確実に馬鹿にされるんだろうな……。
失敗した。
そう思いつつも、それくらいしかあの状況を説得できる要素が無かったのも然り。
いやオレに学が無いからなのか?
そんなティキの心の中の葛藤を余所に、レイラは広間のあちこちを見て回っている。
「そんなことよりも、どうしてこの町には人の気配がしないのから」
予てからの疑問をティキに投げかけてみる。
「町の状況からして、襲われたって訳でもなさそうだしな…」
考えていても仕方が無いので二人は教会の中を調べてみることにした。
Lost of eden
「しっかし要塞みたいにデカイ教会だな」
行けども行けども終わりの見えない廊下の前にティキはぼやく。
「まるで何かとても大事なものでも守っているみたいよね……」
「イノセンス…あるいはもっと重要な何か、を?」
ティキの相槌にバッとレイラは顔を上げ目を見開いた。
「あっいや、こんなに厳重にしてまで守るものって言ったらイノセンス位かなぁなんて思ってさぁ」
ハハッと笑い慌てて弁解をしてみせたが彼女の疑念は消え去らない。
ティキは仕方なく説明をした。
勿論、信憑性が出るようにと学の無い頭を振フルに回転させて。
詰まる所、自分の家族は遺跡や過去の歴史について色々と調べていて、伯爵やノアの一族のこと、イノセンスに関することなどを独自に記録していること。
そして新しい情報が入ったので、自分が調査しに行くようにと言われて来たと言う事を説明した。
勿論、言わずもがなで嘘八百である。
「ブックマンとは違うの?」
「少し違うかな。アイツらは記録するだけ。でもオレらは調べ上げるんだ。
それこそ歴代女王のスリーサイズまで」
片目をつぶってニヤリと笑う。
「ごめんなさい。疑ってしまって」
お互いに完全に打ち解けることが出来たのか、レイラはクスクスと無邪気な笑みを見せた。
それからまた暫らく教会内を見て回るがそろそろ歩くのにも飽きてきた。
すると丁度良いタイミングで一枚の扉が現われたではないか。
扉は特に仕掛けも無く、すんなりと二人を中へと入れる。
扉の向こう側は大広間と造りは差ほど変わりは無い様に思えた。
ただ違う所といえば、辺りに立ち込める生臭い空気と薄暗い部屋の奥に何やら黒く蠢く気配があるということ。
「久々ノ…人間…ダ」
低くくぐもった声。
「丁…度…百人…」
ただならぬ空気が流れる。
「AKUMAがいる」
イノセンスに手を当てながらレイラは呟く。
ヤバイ…疼いてきた。
そんなレイラとAKUMAのやり取りを横目に、ティキは殺人衝動を抑え平静を装うのに必死だった。
確かにこう言う事態は予想していたが、進化直前のAKUMAの殺気と狂気染みた快楽をこうも肌で感じていると、いつも以上に疼く。
ティキはククッと自嘲にも似た笑いを零す。
ウソと嘘
(今はまだ、何も知らない)
----------
2006,12,11
2010,03,22加筆修正