終わりの始まり
「なんか用ッスか?」
つい先程まで動いていたであろう肉塊をグシャリと踏み潰しながらティキは尋ねた。
「はイ♪黒の教団からこの人物の奪還をお願いしまス♪」
そう言って手渡された書類と一枚の写真。
その写真に写っている人物を見たときドクリと心臓が一瞬波打つ。
「どうかしましたカ、ティキぽん?」
「いや。何でもないッス」
自分でも何に動揺したのか分からないが平静を装い返答をする。
「懐かしいでしょウ…」
伯爵は聞き取れるか否かの声で呟いた。
「え?」
「いエ。何でもありませン♪それより頼みますヨ♪」
なんせ彼女は大切な
――――なんですかラ……
Lost of eden
列車を降りて最初に見た光景は、驚かずにはいられないものだった。
侵入者を寄せ付けようとしない砦。まるで誰も居ないかの様に閑散とした町。
一番奥には町の入り口にからでも気圧される程巨大な教会。
呆然とそれらを眺めているとコートの裾を引っ張られている事に付く。
我に返り足元に目をやれば、小さな少女がいた。
少女はグイグイとコートの裾を引っ張り、町の中へ入るよう急かす。
「ねぇ何処へ行くの?」
たまらず少女に向かって聞いてみたが、少女は黙って私を町の奥へと連れて行くだけだった。
ふと少女が足を止めると「ここ」と言ってあの巨大な教会の扉を指差す。
「この教会に入れってこと?」
少女は頷く。
誰に連れて来るように言われたの?と聞くと少女は俯いてしまった。
(誰かは言えないってことか…)
まぁこの教会に何かがあることは確実だし、伯爵やAKUMAにさえ気を付ければ…。
ポンッと少女の頭に手を乗せて「ありがとう」と言えば、少女はパッと表情を明るくしてニコリと笑うと町の中へと走っていってしまった。
教会の中は町同様、人の気配は無かった。
取り敢えず廊下を真っ直ぐ歩いてゆくと大広間に出る。
するとそこには、クセッ毛のボサボサ頭にビン底メガネといった風貌の、何とも教会には不釣合いな男性の姿が目にとまった。
「貴方が私をここに呼んだの?」
怪訝そうな顔をしながら少し語気を強めて尋ねる。
もちろんいつでも攻撃できるようにとイノセンスに手を当てて。
「いんや。オレは女の子に連れてこられただけさ」
短くなったタバコを床の上にポトリと落として火を踏み消す。
「オレはティキ=ミック。お嬢さんは?」
ヘラっと笑った彼の表情を見て、少しだけ警戒心を緩める。
「私はレイラ=ベルベット」
エクソシストよ、と名乗った彼女に対し、やっぱりね。とティキは気付かれぬ様、そっとほくそ笑んだ。
終わりの始まり
(まだ、誰も何も知らない)
----------
2006,12,11
2010,03,22