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秘匿


「そろそろ動き始める頃ですネ♪」


深紅の表紙をした一冊の本を手に伯爵はニタリと意味深に笑う。



Lost of eden



「これ、ほんの一部の人しか知らない黒の教団に昔から伝わる聖書なんだけど…」

そう言って徐にに手渡された本は普通の聖書とは違い、鮮やかな深紅色をしていた。
神様なんて信じないはずのコムイがなぜ聖書を、と思いつつもパラパラとページを捲る。

見た目こそ普通の聖書と変わらないが、内容はまったく別のものだった。
聖書というよりは物語と言った方が良いくらいだ。


「レイラちゃんはそこに書いてあることを信じるかい?」

「私は…宗教を信じてない」


パタンと聖書を閉じ、机の上に置く。
確かにこの聖書は他のものとは違う。けど所詮は宗教の伝道手段に作られたもの。
そこに真実なんて見出せない。
だから私は宗教を信じない。
まぁ本として読む分には幾分興味はあるけれど。


「そう言うと思ったよ。ただ、ここに書いてあることは『宗教』というよりは『歴史』が綴られているんだ。
石箱(キューブ)とは別の、ね」

「裏の歴史ってこと?」


ラビが知ったら飛んで喜ぶんだろうな。
それがほとんど誰も知らないものともなれば尚更だ。
宗教は信じないからと机の上に置いた聖書をもう一度手にとって開く。
するとここを見てごらん、とコムイは後ろの方のページを開いた。




全知全能なる神などいない。其処に居るのは自らの才能と業に溺れた者達。
遥か昔に掲げた大義は、今は誰の心の中にも無い。

しかし私にはもうどうすることも出来ない。
憎しみは連鎖し、彼を、伯爵を止める事も諭す事も叶わない。

私達が創ろうとしていたものは一体何だったのか――――





黄ばんだ紙に流麗な文字で綴られていた文章に何故か切なさを覚えた。
それに一応聖書と名が付いていながら『神などいない』と書いてあっていいのだろうか。
何より一番疑問に思ったことは『伯爵を止める』と語っている節だ。
これを書いた人物は千年伯爵と対等に近い存在だったのだろうか。

気になるヶ所は沢山ある。
つい数分前までは下らない宗教書物。良くて夢物語程度にしか思っていなかった『聖書』と呼ばれるその本。
しかし今はどうだろう、コムイはこれを“裏の歴史を語る歴史的書物”だと言ったが私にはそうは感じられなかった。
これは記録だ。
いや、もっと正確に言えば“ある誰か”が実際に見て、聞いて、感じた出来事を書き記した日記だ。
それが分った今、体が震えた。


「それで本題に入るけど、実はこの聖書にはイノセンスが散らばっていった場所が何ヶ所か示してあるんだ。
君にはその場所に行ってイノセンスの回収をしてもらいたい」

「分りました」

「それじゃあ早速出発してもらおう。場所は資料に書いておいたけど、一応これも持って行くといい」


コムイは資料の束と一緒に聖書も手渡した。


「良いんですか?こんな大事なもの…」

「大丈夫ダイジョーブ。ほとんど誰も知らないって言ったでしょ。
だから無くなっていても気付かないよ」


グッジョブ!と親指を立てコムイはウィンクをした。
いいのかこんな室長で……
けれど嬉しい事だった。任務中に読むことが出来るのだから。


「長期任務になるからくれぐれも伯爵には気をつけるように」


いつもの言葉を背にレイラは室長室を後にした。



秘匿



(隠された真実と忘れてしまった記憶)

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2006,10,29
2010,03,22加筆修正