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08



向かった先は始まりの場所。今はもう、焼け残った立ち枯れた松の木とまだ蕾すら付けていない桜の木、そして焦げ付いた門の枠だけしか残っていない。それでも私は…いやきっと皆、何度でも当時の風景を忘れられずに思い出す。



Dark in the pool



久方ぶりに訪れた私達の故郷は相も変わらず何もない淋しい田舎の外れだった。一歩一歩、寺子屋に続く緩やかな坂道を登る。視界が開けた先には当時のまま何も変わっていない"我が家"
そっと門の枠木に指を運び感触を確かめる。懐かしさに二人してフッと顔が綻ぶ。
建物のあった場所には焼け焦げ、黒く炭化した木材が折り重なっていた。その周りを頭の中で、嘗てを思い起こしながらゆっくり、ゆっくり一周する。
此処に厠があってお風呂があって、裏の林が見える所に先生の書斎があって…此処が教室。その少し奥に三つ部屋があって、手前から順に先生の寝室、私達の部屋、そして空き部屋。ぐるりと回って縁側があり、庭の隅には物置小屋。竹刀や木刀、書物なんかがあそこにあった。


「懐かしい、な……」
「うん、」


いつの間にか高杉が隣に立っていた。幼少の思いに馳せていた意識を少しずつ昇華させてゆき、そしてはたと思い出したのか沙樹は高杉の手をとり駆ける。それに少し驚くが、繋いだ掌から伝わる無邪気で幼い熱に、あぁそういう事かと笑む。


「どうしたァ、んなはしゃいでよォ」
「これっ」


徐に押し当てられた感触は、ザラザラゴツゴツとした木肌。


「こらァ…松の木、か」
「昔、雪の日にみんなで登って遊んだよね」
「嗚呼、ヅラが危ねェから辞めろって叫ぶの無視して俺もお前ェも登ってたっけか」


松の木を背もたれにクスクスと笑い合う。それで銀ちゃんがさぁ…と沙樹が口を開きかけた時、門の方から何かを落とす音が聞こえた。


「ッ……う、そ…だろ…、?」


ハッと振り向けば銀色が目に飛び込む。


「ぎん…ちゃ、ん……?」


駆け出したのは彼の方で、一瞬で距離はゼロ。驚きの表情のまま、沙樹と高杉を交互に何度も見比べる。


「此処にゃァ先生は居ねェぞ」


呆れ顔で高杉が一言。


「心配すんな。俺達ァ絶対ェくたばらねェ、よ」


クシャリ、癖毛の襟足を掻き少し俯く。


「良かっ、た…」



過去と嘗ての



真冬の雪が降り積もる日、私と晋助は小太郎の注意を無視して松の木に登り、銀ちゃんは寒ぃ寒ぃと言いながらも両手に干し柿を抱えていて、それを見た小太郎がまた怒っていた。
そんな他愛も無い記憶がどうしようも無く恋しくて、強くはなれない私達はこうして想い出を求めて何も無くなった"我が家"に帰るのだ。


(弱いままでも構わない)
(大切な人達がそこに居さえすれば)

(そう…居さえすれば、良かった)
(例え意見が食い違っても、例え刃を向けたとして、も)


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2010,04,16