作戦決行まであと二ヶ月弱。桂とは陸奥との密会後、割と直ぐに会うことが出来た。しかし、やはり彼を見付ける事は出来なかった。 「これからどうすんだ?」 「分かってるくせに…」 「ククッ……」 高杉は独特の笑い声で喉を軽く揺らしそっと沙樹の肩を抱く。 「あんま無理すんな」 昔より、幾分か落ち着いた声色。それは四年半と言う月日のせいなのか、それとも光を失ったせいなのかは分からない。ただ私が言えるのは、それでも彼は昔から何一つ変わっていないと言うこと。 ここ半年、ほぼずっと気を張っていたのが一気に解けていく。ゆっくりと胸板に頭を押し付けられる。そして閉じた瞳から零れた雫が晋助の着物を艶やかに濡らした。 Dark in the pool 「あやつの事は俺も捜している。しかし…どうにも見付からん」 焦燥やら悔しいやらと言った面持ちで桂は口を噤む。元々桂とは書簡でやり取りをしていたせいもあり、再会した時も差ほど驚かれはしなかった。だが、そんな情報通な彼でさえ、銀時の消息に関わる一切の情報も持ち合わせていなかった。 「辰馬の死に一番動揺していたのも奴だしな」 「いつから居なくなったかは…分かるか?」 「あぁ…丁度、お前らが幕府の艦隊と衝突した頃から万事屋に帰っていないそうだ」 「……沙樹?」 ずっと黙りこくっていた沙樹の纏う空気がざわついた。 「……犬が、…」 キンッと刀が鳴く。同時に桂の背後が紅に霞む。低く唸る様な呟きは怒りや憎しみを孕む事のない、純粋な威嚇だった。気付けばヅラの真横に沙樹は居て、ドサリと倒れ込む二体の人影は見事に急所をバッサリと断ち切られていた。高杉はふっと一呼吸置いてから、再び口を開く。 「兎に角、俺達ァ奴を捜す。だからテメェはテメェのやるべき事をしろ」 今し方の斬り合いなど無かったかの様に話しを続け、そして一方的に話しを切り上げるとそのまま背を向け歩き始める。 「、ッオイ…!」 既に数メートル離れた二つの背中を桂は呼び止める。ゆっくりと振り返った沙樹は、真っ直ぐで揺らぎの無い目をしていた。復讐や哀しみ、迷い等は一切無い。ただ、志に重きを置き、それを貫こうとする強い眼差しだった…… さぶらひ いつから彼女はあんな目をする様になったのか。あれではまるで、戦に向かう侍ではないか…、 夕日に溶けてゆく二人の影を桂は目を細め、寂しそうに見送った。 (止める余地など何処にも無い) (戦う意味と闘う意志、そして守る意趣を持つヒト) (即ち、侍) ---------- 2010,04,13 |