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06



力強く弾かれる弦。打ち付けられた撥の荒々しさとは違い、奏でられるのは静かで哀愁を帯びた唄。ピンッと張り詰めた三本の弦の様に、真っ直ぐに清む唄は津軽三味線とはまた違う強さを持っていた。何も言わず、ただ三味線に唄わせる。それを私は彼の真横で聴くのだ。心音のビートと共に――――



Dark in the pool



春先の肌寒くも柔らかい夜風に髪を靡かせ、まだ夜が明け切らないまま宿を後にする。そして一旦江戸を離れある人物の捜索と合流を目指す。


「ほんにお主らが生きとったとはのぉ」


その独特な口調は、どうしても彼を思い出さずにはいられなかった。


「幕府が死亡と認めるまで大変だった」
「ははっ、ほんによぉ言いよる様になったの」


隣で高杉が「だろ」と薄く笑う。


「で、早速本題じゃが、わしらの準備は粗方整っちゅう。じゃが…」
「だが…?」
「問題が一つ。奴が中々捕まらんのじゃ。流石は逃げのなんとやらと言われちゅうだけの事はあるがじゃ、如何せん奴がおらん事には詰めの話が出来ぬ」


至極面倒臭そうに陸奥は眉を潜める。


「アイツはあまり乗る気じゃないんだろう…?」


元々過激派から穏健派へと転じた奴の事だ、今更かつての仲間が殺されたとてそう安々とまた鞍替えなど出来ないはずだ。まして元来真面目な彼は、総勢数千人となった巨大な組織を纏める今、尚更この計画に二つ返事で承諾は出来ないのだろう。


「まぁ、確かにそれもあるがじゃ……」


難しい顔、と言うか何か言い渋る様な顔をした陸奥が仕方なしにと口を開いた。


「白夜叉の消息が分からんのじゃ」
「、何…?」


隣でずっと黙っていた高杉が驚いた様に声を上げる。


「あの餓鬼共はどうなんだ」


陸奥は首を横に振る。


「駄目じゃ。奴らも探している様だが……」
「生きてはいるのか?」
「………さぁ、な…」


深く刻まれる眉間の皺。ギュッと握る拳。しかし沙樹は軽く深呼吸をし、冷静を装う。


「アイツは…生きてる」


陸奥の目を真っ直ぐに見据える。それに「分かった」と陸奥は頷くと、三度笠をかぶり踵を返した。



英雄にはなれない



力強く握られた手からは晋助の熱を感じた。それは『大丈夫だ』と言葉で言われるよりも安心出来た。


(英雄とは何かを創る者)
(だから俺達ァ世界を壊す悪役、さ)


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2010,04,12