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05



田舎町を後にし、私と高杉は江戸に向かった。大手企業の高層ビルが建ち並ぶ都心。そこの音楽業界トップに位置する会社のビルのエントランスに堂々と腰を下ろす。誰も私達に気付かない。そう、今の私達など誰一人として気にも止めない。
負け犬であり過去の遺物である私達には――――



Dark in the pool



あれはいつの事だっただろう。まだ戦争は激しさを増していなくて、まだ空が青く晴れていた。
私の隣には晋助が座っていて、その横で万斎君が譜面片手に新曲と奮闘中。反対側の私の隣ではまた子ちゃんと武市さんが昼に食べた甘味の事で言い争いをしている。
甲板の上はやけに日の光りが穏やかで、とても世が恐るるテロリスト集団とは思えない。
仲間や同志なんかじゃねェって晋助は言うけど、確かにそうね。


「だって家族みたい」


そうクスリと笑いながら告げれば「莫迦か」と呆れられた。それでもフッと崩した口元で


「家族、か……」


とボソリと呟く貴方は、満更でもなさそうでとても優しい横顔をしてた。
すると隣で立つ万斎が譜面から目を離し徐に口を開く。


「晋助はさしずめ都都逸で沙樹、お主は童謡と言った所か」
「ちょっとそれ、どういう意味万斎君」


納得がいかないと抗議の声を上げる。


「ククク、まんまだろ。なァ?」
「晋助まで…!」


万斎はぽんぽんと子供をあやす様に頭に手を置き、高杉はぷくっと膨れた頬をギュッと抓る。子供扱いされているようでどうにも釈然としなかったが、皆の笑顔を見たらどうでも良くなってしまった。笑顔の数が幸せの数だて言うならば、確かにあの時、私達は幸せだった。






「鬼兵隊、人斬り万斎は死んだ」


沙樹は暫し閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。


「そうかィ」


そう短く応えると高杉はくしゃりと沙樹の髪を撫でた。そして二人は立ち上がりエントランスホールを出て行く。そう、確かに河上万斎は第二次攘夷戦争の時に死んだのだ。利き腕の健を断たれた人斬りはその命を散らし、今は一流の作曲家。まともに動かぬ利き腕で、それでも三味線は弾いていて。奴はもう関わらない。関わらせないと決めた。



幸福理論



すれ違い様に耳を掠めた旋律。


「今は荒れ狂うメタル、でごさるな」


そして隣から聞こえるのは優しい子守唄。雑踏の中に消えて行く背中を見詰めながら自嘲気味に呟いた。


「すまぬ……」


滲みそうな視界を細め、そっと拳を握る。


(生きている私達がする事は一つ)
(例え誰かを悲しませても)
(例え世界に憎まれても)
(例え…それが間違っていたとしても)

(私達にとってそれが正しいのなら、彼等が笑えるのなら構わない)

(幸せとは大切な人の笑顔、だから)


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2010,04,07