閑散とした外れ村。そこの寂れた茶屋で団子を頼む。 老夫婦が営む店には不釣り合いな下駄が一組。目端でそれを確認し、ごちそうさんと声をかけ茶屋を出る。 入れ違いに買い出し袋を下げた娘が擦れ違い様、目を見開く。私はそれを無視する様に歩みを速める。 追って来る。 そう確信していたから―― Dark in the pool 江戸に向かう前、私と高杉は日本海に面した小さな、小さな村に立ち寄った。 ―――来島また子 彼女がこの村に居る、そう情報が入っていたからだ。 だが彼女も高杉と同じく、死体の上がらぬまま状況証拠のみで死亡が確定されていた。それでも、確証は無かったが私には彼女が生きていると言う確信があった。 「もしも奴が本当に居たとして、首を縦に振ると思うか?」 静かな低い声。それは落ち着きを払っており、嘗てのソレとはまるで違っていた。 「私と…お前がいるんだ。アイツが首を横に振るなんて事は万に一つも有り得ない」 「酷ェ、な」 「何とでも言えば言い」 「いや、別に責めちゃァいねェ。ただ……」 「ただ…?」 その問いに答えるよりも前に後方から走り寄る気配を感じる。走る、と言うより脚を引き擦ると言った方が近い。そんな地面が擦れる音。 「ま、っ待つッス…!」 少し色と落ち着きを含んだ懐かしい声。風の流れに身を任せる様に右肩から振り向く。息を切らせながら懸命に坂道を駆け上がる。引き擦られ、土に塗れた不自由な左脚。泣き出しそうな目尻。 「よぅ、来島ァ」 彼の様に不敵に笑えば、泣いていた。倒れる様に抱き着いてきた金糸の髪を優しく撫でる。 「沙樹ッ…晋助さ、ま…ッ…」 しゃくり上げる嗚咽。強められた腕の力に、四年という月日の長さを改めて感じさせられる。あの時の凶弾は確実に自由を奪っていた。 「最後の戦、参加する気はあるか」 答えなど分かっている。だけど、聞かずにはいられなかった。 彼女の、彼女の笑顔が見たかったから。 「勿論ッス!」 涙に濡れた笑顔。それは歩みを進めるには十分だった。 強いる縁 ただ……お前ェは俺に似たな、と思っただけだ。そして俺ァお前に似た。それだけの事。 (流した血の量だけ深まる縁) (斬り殺した数だけ強まる絆) (君の想いを利用する私を赦さないで…) ---------- 2010.02.23 |