変えた未来に責任を持つ。そう言って小太郎は日本を背負う場に立った。 真面目で責任感の強い彼らしいと言えば彼らしい。そして、その実直さは人を惹き付けるには充分過ぎる資質だ。きっと、今度こそ正しい発展、真っ当な発達をこの国はするだろう。 Dark in the pool 残暑の日差しも大分薄らぎ、秋風が流れ込み始める時期になった。そよそよと夏の残りを含む風が質素だけれど、中々風情のある縁側に腰掛ける彼の髪を誘う。 「大分、涼しくなってきましたね」 青い硝子の冷茶湯呑が二つ乗せられた盆を手に、沙樹は隣に腰掛ける。 「あァ…そうだな」 茶に手を伸ばす腕は逞しく、私はこの腕に守られて来たんだと改めて実感する。嘗てからすればかなり落ち着いた、けれど地味過ぎず渋過ぎず、締めの鮮やかな色が上品に利いた着流し。それは昔とはまた別の色気を醸し出す。 「沙樹、」 スッと後頭部を抱き寄せられる。涼しげな伏せられた睫毛。唇に感じる熱い、熱。しっとりと優しく押し当てられた唇が、名残惜しげに離されれば、晋助の瞳の奥に映り込むほんのりと頬を染めた自分が居るのにに気付く。 「ククッ、いつまで経っても変わらねェなァ」 「もう、そうやって」 クスリと照れを含めて微笑めば、ふわりと頬を撫でられてから大きな掌で包まれ再び軽く唇を啄まれる。幸い、その後の処置が良かったのか強い光に晒さなかったのが功を奏したのかは分からないが、現代の医学のお陰で晋助の右目は光を失う事は無かった。それがどれだけ嬉しかったか。 こんな事は言ってはいけないのかもしれないが、もしかしたらあの戦争に勝利した時よりも医師から「大丈夫だ」と告げられた時の方が私は数段嬉しかったかもしれない。 「そろそろ来る頃かァ…」 「ええ、そうね」 ガラガラと玄関の引き戸が開けられる音がした。 「父さん母さん、皆連れて来たよ!」 凛と澄んだ若い時の晋助に似た声が廊下に響いたと思えば、ガヤガヤと賑やかなそして懐かしい声が複数聴こえて来る。 輝きて青天 そっと揺らした心と髪に秋晴れの蜻蛉が夕焼けに染まる。自然に絡めた指先が平凡で細やかな幸せを語り合う。 あの人と彼を奪った世界は何時までも憎くて仕方がないけれど、貴方と彼らが生き、キミが産まれて来てくれた世界は何よりも愛おしい。 真っ直ぐにしか生きられない不器用な私達は何十年経っても変われない。けれど、それで良いんだ。自分が自分であるならば、無理に変わる必要は無いから…… (オーイ高杉ィ旨い酒持ってきたぞー) (沙樹の手料理なんて久しぶりだな) (沙樹ー!今日は一緒にお風呂に入るネ!) (ちょ、銀さん靴くらい揃えたらどうなんですか) (あーもーお前ら少しは静かに出来ないッスか!?) (ふむ、中々良い家じゃの) (相変わらず騒がしい奴らだ。ったく人の嫁を何だと思ってやがる) (フフ、まぁ良いじゃない、ね、晋助?) (まァ、そうだな) ---------- 2010,05,28 完 終わった…!!! 次はあとがきです |