知らぬ間に懐に忍ばされた手紙。流麗な文字で書かれたそれは一点の曇りもなく、今一度、覚悟をし直させるものだった。 (『 』か……) 一瞬、躊躇いを見せてからクシャリと紙を握る拳。 「―――近藤さん…」 Dark in the pool 文鎮を取り出し硯に水を張る。シャコシャコと墨を摩る音。カタン――と固形墨を置き筆に摩り上がった墨液を含ませる。 三枚。 綺麗に抄かれた和紙を広げる。 こうして机に向かっていると昔を思い出す。 正座した足を組み直し、息を軽く吐き背筋を伸ばす。肩の力を抜き目を閉じ、そして筆を手に取る。 書とは人の心を映すもの。 乱れ、迷いは勿論、意志、想い、覚悟も表れる。 だからきちんと向かい合いなさい。 それが伝えたい言葉であればある程、真っ直ぐに――― 「来島、これ」 二通の手紙を手渡す。 「了解っす」 しっかりと頷いた彼女の瞳は、真っ直ぐで綺麗。昔の様に接っせない事に寂しさと少しの罪悪感。玄関を後にする普通の着物を着た背に靡く金糸は、今も変わらず私達の光、だ。 待っていたのだろう、か。万事屋の戸を叩けば直ぐに銀髪が顔を覗かせた。また子を見ると少し驚いたように目を見開く。しかしそれを気にする事なく懐から取り出した手紙を手渡し、それじゃあと立ち去ろうとすると、声を掛けられた。 「、……元気、か…?」 誰がとは言わない。 躊躇いがちに吃った問いと不安げな顔。 「それに全部書いてあるっすよ」 振り向かず、一言残し階段を下りる。 銀時はまた子の姿が見えなくなってから手中にある手紙に目線を落とす。裏返し、ゆっくりと広げてゆけば、流れる様に柔らかい文字が並んでいた。それをひとしきり読み終え、息を吐く。 (また、少しの間アイツらに心配掛けちまうな…) 廊下の先に目線を投げ、申し訳ないと髪を掻き上げる。応接間の椅子に腰を下ろし手紙を机の上に置く、と、もう一枚、手紙があることに気付く。 カサリとそっと折り目を解いてゆく。 ハッと息を飲み、そして同時に笑みが零れる。 大きく描かれた力強い字。 「新八、神楽、今夜はすき焼きだ!」 単純で何が悪い。 緩んだ頬が幸せを語っていた。 伝える 曇り無き墨液。 皺の無い和紙。 覚悟と想いと決意の乗った文は心へと。 (『日ノ本に生きる』) ---------- 2010,04,27 |