「俺達ァ土佐へ向かう」 散々悪態を吐いたり昔話やらをした後、高杉はそう告げた。銀時は一瞬、驚いた顔をしたが「そっか」と穏やかな顔で頷く。 「俺も、此処に来る前に土佐に行ってきた」 「そうか」 暫しの沈黙。そしてどちらとも無く背を向け歩き始める。しかしふと沙樹が足を止め銀時の後ろ姿に声を投げる。 「あんまり心配掛けちゃ駄目だよ…!」 おう、と気怠げに上げられた左手はいつもの彼だった。 Dark in the pool のんびりと穏やかな時間が流れる。とてもあと数週間後に大戦を控えているとは思えない程、に。 何をするわけでも無くただ、ひとしきり彼の故郷の地を踏み締める。 幕府がどの様な経緯で情報を掴んだのかは分からない。それを突き止める事は今すべき事では無いし、もしかしたら…… いや今はもう、そんな事はどうでも良い。彼の掴んでいた情報は、確かに私達に届けられ、私達を変えた。 あの日、真っ先に戦場から逃げ出し、裏切り者と仲間に罵られた。けれど逃げ出したんじゃない。彼は誰よりもこの国の現状を憂いて、誰よりも先の事を見据えていた。きっと本当の意味で『覚悟』を決めていたのは彼だけだった。 花も酒持たず、ただ、一本の刀を土佐中を見渡せる、宙に一番近い丘に突き刺す。 泣かない。 あの日晋助と約束をしたから。 手を合わせる事も無く、ただ夜空を見上げた。 ありがとう 不変のものなどなくて、全ては少しずつだけれど変わってゆく。それはどうしようも無いことで、だからこそ人は変わらないものを求めてしまうのかもしれない。そして思いや絆さえもこうして変わってゆく。 より強く反発し、そして思い合う。 (小さく呟いた言葉) (それは友に対してか師に対してか) ---------- 2010,04,20 |