「ほーらっ!早く早く!!」 ニメートル先。手を伸ばせば簡単に届く距離。 「待っ、て…!」 「遅いぞイワン!置いてっちゃうぞー」 シュテルンビルト郊外で年に一度、真夏に三日間だけ行われるJapanese Festival "ENNICHI" 兼ねてより行ってみたいと思っては居たが中々機会に恵まれず、そうこうしているうちに卒業して、ヒーローになって――――― 「歩くの、速、い…って」 ようやく休みが取れて、否、取らせて頂いて。折角行くならと、日本かぶれの本領発揮。 着付けはベテランヒーローに。髪のセットアップは頼れる社長ヒーローに。 「アンナ、!」 照れて直視出来ない、を通り越して逆に凝視してしまった。 だって、そんな、まさか――――― 「こんなに可愛いだなんて、ウソ、だ……」 想像の遥か斜め上。 惚れた欲目?YES、即答。 「なァに?ボーッとしちゃって。あ、もしかしてわたしに見蕩れてた?」 「っ、っ……!!」 「アハハっ、顔が真っ赤だよーイワン」 わたあめ片手にぼくだけ"の"キラースマイル全開。図星、お手上げ、降参だ。 下心は大歓迎 それにしたってなんとまぁ、軽快な足取り。確か浴衣を着るのも下駄を履いて歩くのも初めてのはず。 普段のヒーロースーツが高下駄な自分はともかく、何故キミはそんなに簡単に、且つ速く歩けるのだ。 「なん、で…」 格好良く、男らしく、ジェントルマン。 ちょっぴり期待が外れて残念、苦笑とぽつり呟けば、うっかり拾われる。 「そりゃあ、女の子はいつだって可愛く綺麗になる努力をしてるから、かな?」 ほら、と八センチ近くあるピンヒールを優雅に履きこなし、颯爽と交差点を歩いていく女性を指差す。 「コツを掴めば簡単簡単!むしろ歩きやすいくらい」 なるほど、なァんだ、ちぇ…… 少し子供じみた己の思考にやっぱり苦笑。 気を取り直して、――――― 「でも、さ。ちゃんと手は繋いでくれるんでしょ?」 心の中で小さくガッツポーズ。大きく拍手。 (奥手な振りした狼さん) ---------- 2011,08,18 |