いつも、昔からそうなのだ。彼女の要求は唐突で、突拍子も無く。それは学生時代を終えた今も相変わらず、で。 「イワン、シュークリーム食べたい」 ニッコリ笑って1ドル札を二枚手の平へ。 有無を言わせず近くのコンビニへ走らされる。 「駅前に新しく出来たケーキ屋のチーズケーキが食べたいな、わたし」 今度は財布を手渡し一時間しか無い昼休憩の間に使いを走らせる。 言っておくがこれは断じてパシリなどではない。 健全なお使い、だ。 「あ、ジェラート!ねぇ、」 「はいはい、何味が良いの」 いつもの事だ。言われるより先に差し出されるより先に、言葉と手を差し延べる。 今更断る気も理由も無い。この距離が日常で、居心地が良くて。だから一歩前に、だなんて考えもしていないのに。 「何言ってるのよ、ほーら行くよ」 でも触れたのはお札でもコインでも無く、君の柔らかい手。 小さい癖に力は案外強いその掌に引かれ小走り。 「おじさんジェラート二つ頂戴!ライムミントと、イワンは何味?」 「、え…?あ、あの、抹茶っ!で、」 「おじさんもう一つのはグリーンティーね!」 「はいよ」 嬢ちゃん達デートかい、だなんて気さくに話し掛けてくるジェラート屋のおじさんに笑顔でそうだ、と答える彼女。 あれ、おかしいな。やけに胸がざわつく。 「お嬢ちゃん、だなんて口が上手いよねー。流石にそんなに若くは無いって分かってるけど言われて悪い気はしないもん」 ペロリ、ぱく。 ジェラートを舐める赤い舌がやけに煽情的で、ドクリと何かが沸き上がる。 「っ……!」 思わず視線を反らしてしまう。 そんな気持ちを知ってか知らずか。本人は美味しそうに、ぼくにとっては挑発的に白いジェラートが舐め掬われていく。 「イーワン、一口ちょーだい」 「……っあ、うん、ごめ、ん……ンン!?」 そんな事を考えていれば不意に声を掛けられ、しどろもどろ。 どうぞ、と左手を差し出すが、それが舐め取られる事はなかった。 てっきり、いや普通はジェラート本体から味見をするものだ。 なのに、なのに何で………!? 「うん、甘くてほろ苦い」 「…え、…えぇ……ッ!?」 ちゅっ、とリップ音。 唇に柔らかい感触。口内からさらわれた冷たさ。 みるみるうちに顔に熱が集まっていくのが分かる。 実はわたしあなたに恋をしてるんです 「い、い、いま、なっなにを……」 情けないかな。 噛みまくりな自分にげんなり。 「言ったでしょイワン。一口頂戴って」 楽しそう。本当に楽しそうだ。まるで悪戯が成功した子供みたい、に。 「ちょっと強引過ぎると思うんだけど…」 「何か言ったかな?」 でもやっぱり、本当今更だけどやっと気付いたんだ。と言うより認めてしまおうと思った。 「っ………、ぼくも大好きって言ったんだよ」 せめてちゃんとした告白くらいは、ね。ぼくからさせてよ。これでも一人前の男ですから。 「い、いまの反則…!」 真っ赤に染まった頬に手を寄せもう一度。 ほら、甘酸っぱくて、爽やか。 (多分、最初から) ------------ 企画:英雄/HERO タイトル:春蝉 2011,08,02 濁点 |