今年のMVPも例年通りキングオブヒーローこと、スカイハイ。 街はお祭り騒ぎ。もちろん各企業もお祭り騒ぎ。そんでもってお偉方もお祭り騒ぎ。 立食形式のパーティーで、キングの名にそぐわぬ謙虚な姿勢で、挨拶、御礼、ピーアール活動。絵に描いたような善人だと言う事は喋った事が無くとも、同じ空気を吸えば何と無く分かる。それ程までに彼はヒーロー。 「あたしには、関係ないけど……」 シャンパングラスを片手に弄ぶ。 来るんじゃ無かった。場違いにも甚だしい。 ただの気まぐれで他意も無くねだったベッドでのお願い事は、奇しくも"その場限り"にされる事無く半年近く経った今、こうして律儀に招待されてしまった。 「口は禍のもとってこの事ね……」 とは言っても客の面子を潰す訳にもいかず、仕方無く招待状と共に贈られた見る人が見れば"如何にも"なイブニングドレスを身に纏い出席。 「早く、帰りたい」 見知った顔が数名、視線だけで挨拶。 そりゃあそうだ。おおっぴらに出来ない趣味の"お知り合い"ですものね。 もちろん素顔は晒さしていない。ここに招待されたのはあたしでは無く、J――――― 「チッ……ファッキンボロックス…!」 うっかり口汚い罵りが吐いて出てしまい、再び舌打ち。 さっさと招待状を寄越したあの老紳士を探し出し、ドレスを見せて一言二言交わして帰ろう。 ここは煌びやか過ぎていけない。実力で夢を勝ち取った、真の成功者達の匂いが充満していて――――― 最初で最後 「離、せ…!しつっこい!!」 何処の業界にもルールを守らない、否、聞く耳を持たない馬鹿な野郎は居る訳、で。 「一見さんはお断りだって言ってるで、しょ…!」 生憎ここはまだ、パーティー会場。相手はどこぞの成金息子。嗚呼、蹴り潰してやりたい。勿論、ナニを、だ。 「堅い事言うなよ、どうせ金が欲しくて誰にでも股開いてるんだろう?だったらオレが言い値で買ってやるって」 振りほどいても掴み。逃れても追って来る。 生憎、あの老紳士とはつい先程別れたばかりで直ぐには見当たらない。他の"客"も然り。 仕方ない。得策ではないにしろ、いや、確実にあまり良い方法では無いがやむなし。 「黙れ、このアスホール―――――」 「レディにそんな言葉遣いさせちゃダメ、よ?お兄さん」 回し蹴るより先に、後方へ引き寄せられる。 鳩尾から鈍い音。 ふわり、香る馨。 崩れ落ちる男。 「………えっ、」 偶然?必然?それとも罠?勘違い? 独特のスパイス掛かったシトラス系の香りが鼻を掠める。 「忘れ物よ、仔猫ちゃん?」 差し出されたJと書かれた名刺。 掴まれたままの手首。 あたしにどうしろ、と。 「あんまり心配かけさせんじゃ無いわよ」 この"顔"は知ってる。 何度もテレビで、雑誌で見てきたヒーロー。だけどこの匂いもあたしは知っている。 (このタイミングで、とか) (まるでヒーローみたい) ---------- 2011,08,19 |