コポコポコポ――――― 嗅ぎ慣れない柑橘系の爽やかな香り。何だろ……多分、柚子とライム、それからゴールドグレープフルーツも。 その心地好さに安らぎを感じる。 「ん………」 沈み込む身体を包む柔らかいシルクの手触り。 「、こ、こは……」 「あら、気が付いた?」 広い間取りの部屋に、シンプルで上品な藍色のシーツがかかったベッドの上で目を覚ます。 「今、飲み物持って来るわね」 どれくらい寝ていたのだろう。いや、それよりここは何処だ。彼…いや、彼女の顔に見覚えが無い事から客の誰かでは無いようだ。つまり、あの現場に居合わせわざわざ自宅まで運び入れたのは、この人。 「はい、ネイサン特製ジンジャーエールよ」 手渡されたグラスには良く冷えたシャンパンカラーの炭酸水。 この香りは――――― 「アナタ、NEXTよね?あぁ大丈夫、アタシもそうだから」 身体を強張らせ身構える。 彼女はどう見ても金持ち。 「何が、目的?あたしに何をして欲しいの?」 今、客でなくとも今後、客で無い保障は何処にも無い。金持ち達はこぞって物珍しい"娯楽"が好きだ。 「何って……別に何もしやしないわよ。ほら、傷の手当てするからこっちいらっしゃい」 伸ばされた手を振り払いベッドの上から飛び退く。 「手当てなんて要らない。見てたなら分かるでしょう?」 多分、あれから一時間以上は気を失っていたのだろう。折られた肋骨も撲られた頬も、全身の擦過傷も綺麗に治っている。つまりまた、勝手に発動し、その青い発光を見られた訳だ。 「アナタ…、ヒーリング系NEXT……」 「そう、だから手当は必要ない。一応、助けてくれてありがとうそれじゃあ……っ」 玄関へ向かおうと歩き出した瞬間、胸に激痛が走りその場に崩れ落ちる。 寸での所を逞しい褐色の両腕に抱き留められ、床に叩き付けられる事態は免れた。 砂糖より甘く、香辛料より刺激的 「何に脅えて居るのか知らないけど、アタシはか弱い女の子にあれこれする様な無粋な女じゃないわよ」 絨毯の上に転がったグラスを拾い上げる。 「無理はダメ、ちゃんと休みなさい。ジンジャーエール入れ直してくるから」 ヒラヒラとピンク色に塗られた指先を揺らし、キッチンへ踵を反す。 (何故だろう……) (ここは酷く落ち着く) ---------- 2011,07,16 |