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鳥籠から水槽へ



犯して、犯されて。殺して、奪って、騙し騙され高笑い。
早くこんな世界、壊れてしまえば良い―――――










「ん、ふ、ぁ……や、あ、あぁ…ン」
「あぁ、ほらとっても綺麗だ。もっと…もっと見せておくれ」
「…や、っ……い…は、ァ、………ッッ!」


下位層全体を見渡せる全面ガラス張りのロイヤルスイート。
発光する青。真っ白な肌を流れる血の赤。艶のある黒髪。
その魅惑的な姿態に毒された老いた獣が一匹、下膨れた腹を揺らして愉悦に浸る。
くだらない。
くだらない…くだらない……実にくだらない。


「あ……ぁ、…いッ…た…!!」


テーブルナイフで乱暴に切り裂かれた腕から勢いよく噴き出した血が弧を描く。それを恍惚と見惚れる下卑た視線。
こんな力、誰が欲しいと望んだ……?

――――――ピピピピピピ………ッ……

ようやく、けたたましいアラーム音が鳴り響く。
逃げるように掴まれた腕を振り払いただっ広いベッドの上から降りる。


「今日はこのまま下で食事でもして行かないか?」
「アフターは無しだって言ってるでしょ」


名残惜しげな猫撫で声に吐き気がする。


「ははっ、ツレないな」


伸びてきた手をピシャリと叩き落としても、満足げに嗤う男が気分を害することは無い。むしろ客は揃って、それが良いのだと言う。


「出来ればその、美しいヴェネツィアマスクの下の素顔も見たいところ、だ」
「パンドラの箱を開けて困るのはアンタよ」


目元から鼻までを覆う華美な装飾が施された仮面を、さも美しいものの様に撫でる手を掴み、冷ややかな侮蔑すら篭った視線で牽制。


「おおっ、それは困る。大いに困るな!」


わざとらしく大仰に腹から嗤うこの男からは品位の欠片も伺えない。けれどこれが富と権力を持つ者なのだ。
最低、だな。
そそくさと勝手にシャワーを浴び、身支度、と言うほどの身支度ではないが、替えのシャツとパンツ、ショーツにブラに着替え、来る時に着て来た一切の着衣は切り刻んで燃やしてダストボックスへ。
ものの数分もしないでシャワールームから上がれば、男はベッドの上で葉巻を吹かしゆったりとくつろいでいる。


「確かに、きっちり全額受け取りました」


義務的に視線すら投げずにシュテルンドルの札束を無造作にパンツのポケットへ突っ込みさっさとホテルを後にする。
振り返りなどしない。
息をする間もないくらい足速に、ブロンズステージの路地裏を目指す。


"また、宜しく頼むよ、J―――――"


ドアの締まる間際に聞こえた虫酸が走る言葉が耳元をついて回る。


「クソブタがッ……!!」


痛みだけが残る綺麗さっぱり傷痕すら無くなった左腕を掴み、唾を吐く。



鳥籠から水槽へ



人生の目標は自由。
好きなものは夜の空とシナモンロール。
お金は…好きでもなければ嫌いでもない。
大嫌いなものは金持ちと権力。
それから男と女も大嫌い。


「ここからじゃ星は良く見えない、ね………」


空きテナントだらけのビルの屋上に寝転び空を見上げるも、第二、第一階層の眩しいネオンに妨げられ晴れていても星は殆ど見えない。
出来るなら、落ちて来そうなくらい沢山の星空の下で私は、………


(Better half an egg than an empty shell.)
(半分の卵でも中身の無い殻よりはまし)


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2011,07,14