トントン、トトン。 手持ち無沙汰の指先が無意識に紡ぐリズム。 意外と癖になるこの音は嫌いじゃない。 「まだ、終わりませんか?」 休日のデスクワーク。 詰まらない、訳ではないが構って欲しいらしくパソコンの反射した画面に顔が映り込む。 「もう少し、」 軽快なタイプ音。それに合いの手を入れるかのように指先でノックされる机。 「何か飲みます?」 「じゃあ紅茶。ストレートで、」 「濃いめに、ですよね」 「、さっすが」 「えぇ」 ふわりと動く空気。 熱湯、茶葉、そしてバーナビー。キッチンから香る匂いを鼻腔に吸い込む。 「ありがとう」 幸せな匂いを身に纏い戻ってきた彼から差し出されたマグカップを受け取り、ふぅと一息かけてから口へ。 熱さも香りも濃さも、みんな私好み。ちょっとした優越感に顔を綻ばせる。 隣り、よりもやや斜め後ろに椅子を持ってきて腰掛けたバーナビーは一房、髪の毛を手に取り梳く。一定間隔で繰り返されるそれは、仕事の邪魔をする訳でも、相手をしてくれとせがむ訳でも無くむしろ心地好い。 「仕方ない、わね。もう…」 苦笑し眼鏡を外す。 モニターの電源を落しノートパソコンを閉じすっくと立ち上がる。 「仕事、終わったんですか?」 「どうせ急ぎじゃないから明日、会社でやるわ」 ソファまで移動し振り返る。椅子に座ったままのバーナビーをちょいちょいと手招き。 直ぐに立ち上がり先にソファに腰掛けたのを確認してから、よいしょと向かい合う形で彼の膝上にオン。 「仕事、片付けてからで僕は構わなかったのに」 平気だと、空かした顔の奥には"俺を見て"と懇願する瞳。 「だって兎は寂しいと死んじゃうでしょう?」 「誰が兎ですか。おじさんみたいな事言わないで下さい」 「だっておばさんだもの」 無意識に、無自覚に時々意図的に。誘い上手な彼はやっぱり兎。 ふふ、と笑いぎゅっと抱き着き鼻梁にキス。 無防備な裸 誘ってますよ、と指で輪郭をなぞり視線を絡ませ額をコツン。 「レティって、」 分かっていますよと、がっつきたい衝動を抑えつつ、でも滲ませつつ。 「何だかんだで僕に甘いですよね」 滑り落ちた手は服の中。 「あら、今更気付いたの?」 ソファ?キッチン?それともベランダ? 鳥だろうが空だろうが見せ付けてやれば良い。 (An ounce of luck is better than a pound of wisdom.) (1オンスの幸運が1ポンドの知恵に勝る) (好きよ、好きよ、愛してる) (キミが居るだけで充分、だなんてしおらしい事は言わないわ) (全部、頂戴。過去から未来、爪の先から髪の毛の一本に至るまで) (私の全部もあげるから) ---------- 2011,06,24 |