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真っ白な嫉妬



多分、僕はその笑顔を知らない。


「レティ!」
「久しぶりー!まぁた可愛くなっちゃって、ますますお母さん似の美人になってきたわね」


たまたま、街で見掛けた貴女は駆け寄ってきた女の子を抱きしめ頭を撫でていた。


「ラティーシャ、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい」
「ぼちぼちって所かしら?」
「いつも新聞見ているけど、虎徹もアンタも体にだけは気を付けてお願いだから無茶はしないでよね」
「はいはい分かってるって。あ、楓、このお花持ってて貰って良いかしら」
「はーい!」


普段とは違う、僕と一緒に居るときとも違う身内に見せる顔。
あの人達はきっと彼女の家族同然の人達なんだろう。


「いつも悪いねぇ」
「月命日に行けるかどうかなんだもの、これくらいしないと、でしょう?」


あの人の事も貴女の事も、結局僕は何も知らない。優しさと言う大人の言い訳に甘やかされている。


「お父さん、また来ないの?本当、約束破ってばっかり」
「本当よねー。でも一番大事な約束だけはいつもちゃんと守ってるから、ね。許してあげて」


少し、むくれた女の子を諭す時の笑顔。年長者の心配を照れ隠しで釣れなくあしらう嬉しそうな笑顔。大切な誰かを思って零す、寂し気に懐かしむ笑顔。


「むぅ…レティがそう言うなら今回は許してあげるけど」
「良かった、これで虎徹にまた、借りが出来たわ」


年不相応の悪戯っ子の笑顔も多分僕は知らない。


「ラティーシャ、アンタ本当に大丈夫なの?無理してない?」
「心配し過ぎよ。大丈夫、二人との約束もあるしまだまだ頑張れるわ」
「そう…?まぁ良い人も出来たみたいだし、あんまり口喧しく言うつもりはないけど」


貴女の両親が謎の失踪を遂げている事、貴方が既婚者で子供が居る事。
情報としては知っている。でも、その時何を思って何を感じていたのかそれは、アナタ達から直接話して貰わないと分からない。



真っ白な嫉妬



「ジューニア、」
「何ですかいきなり後ろから。胸、当たってますけど」


独りカウンター席で沈む背中にブランデーの入ったグラスを片手に後ろからもたれ掛かってみる。


「何か嫌な事でも?」
「いえ、別に」
「そう。じゃあ嫉妬かしら?」
「――――はぁ…どうしてそう言う思考になるんですか」


隣りの席に横座りし、顔を覗き込む様にすれば疲れた瞳。


「図星でしょう」
「違います。大体何に対して嫉妬するって言うんです。貴女みたいな漢勝りでキツイ物言いで酒を呑めば絡み酒になってガサツで無鉄砲な女性を僕以外が好きになるとでも?」
「ほら、やっぱり図星」


早口でまくし立てる薄くアルコールで濡れた唇にそっと人差し指を押し当てる。


「知りたいのなら聞いて…?」
「聞いたら教えてくれるんですか?」
「ジュニアが受け止めてくれるのなら、」


どうする?と挑発気味に眼鏡に手をかけ優しく取っ払う。


「良いでしょう。貴女がそのつもりなら洗いざらい聞かせて貰おうじゃないですか」


狡い大人は臆病な印。
誘う振りして待ってるの。だから名前を呼んで、しつこい位にキスをせがんで頂戴。


(Love is a leveller.)
(恋に上下の隔て無し)
(キミを子供扱いしてしまうのは自分の弱さを隠す為に他ならない)


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2011,06,09