「ラティーシャ―――!!」 切羽詰まった大きな声と勢いよく開け放たれた引き戸。 「ここは病院よジュニア」 「えぇ分かってます。そんな事より爆発に巻き込まれて怪我をしたと」 「仕事柄そう言う危険性がある事はお互い承知の上でしょう」 「だから?心配するなと?冗談じゃない、僕がどれだけ身の縮む思いをしたか…!それに怪我の事は疎か、入院しただなんて一言も聞いてません」 「だってわざと言ってないもの。ジュニアにはジュニアの仕事だってある訳で、それに言えばこうやって何もかもほっぽって此処へ来ちゃうでしょ?」 「当たり前です!心配?するに決まってるじゃないですか。全く貴女って人は……」 ここはシュテルンビルト内の大学病院の病室で、そこで普段は中々お目にかかれない程取り乱しているのは今をときめくハンサムヒーロー、バーナビー=ブルックスJr. タイミングの良いことに丁度大部屋の他の患者達は皆、出払っている。もちろん、抜目ない彼の事だからそれを確認してのこの行動だとは思う。それでもいつもの冷静さは無く、逆にこちらが心配してしまいそうな勢いだ。お得意の理路整然としたきつい口調でまくし立てられやれやれと軽い溜め息。 「ジュニア、少し落ち着きなさい」 「逆にどうして貴女はそうも冷静なんです」 来訪直後よりは幾分声のトーンは落ち着いてきたが、それでも興奮状態なのに変わりは無く、眉間には皺が刻まれている。 「貴方はヒーロー。一瞬の迷いが、戸惑いが死に繋がる可能性だってあるの」 「そんなこと分かっています」 「そう?なら今の貴方はどうなのジュニア」 「――――ッ」 説教をしに来たはずが逆に正論を突き付けられ二の句が継げなくなる。 真っ先に、いの一番に貴女を、一番大切な貴女を助けに行きたい、そう思う事は間違っているんですか――――? そう俯き加減で問われれてしまえば年上彼女としてきちんとフォローしなければ。 「バーナビー」 普段、呼んで欲しいと頼んでも滅多に呼ばれない、呼んでもらえない響きにピクリと体が反応する。 「私はね。貴方に私だけのヒーローになって欲しいだなんて本当にこれっぽっちも思ってないの」 眼鏡の奥の瞳が曇り、寂しそうな顔。流石に心が痛い。 「そんな顔しないで、バーナビー。だって私はお姫様の為に命を投げ出すナイトより生死を共にするプリンスが望みなの」 その意味、分かるわよね?と優しく見詰めれば大きく見開かれた瞳。クスリと頬を緩めブロンドの髪を引き寄せ唇を重ねれば 「もちろん、My sweet princess.」 と囁かれる。 よしよし、いつものクールなナイスガイヒーローに戻ったみたい。 「分かったなら早く仕事に戻りなさい。ロイズさんがやきもきしてるはずだから」 「えぇ、そうさせて頂きます。ただ、退院したらきちんと埋め合わせ、して貰いますからね」 クールで生意気なスーパールーキー得意の笑みで病室を後にするバーナビーの背を見ながら、まだまだジュニアね、とふふと笑い大人の余裕。 英雄 「もう出て来ても良いんじゃない?ベテランヒーロー」 「あーびっくりしたぜ全く。急に入って来たと思えば全然俺に気付かねぇで話し初めちまうんだから、オジサン出るに出れなくて隠れるしかなかっただろ。ったく」 ベッドの下から這い出て来たのはワイルドタイガーこと、鏑木・T・虎徹。 ハンチング帽を被り直しながら呆れ顔で得意のお節介。 「しっかし、お前もアイツの彼女ならもう少し優しくしてやっても良いんじゃないか?流石に言い方キツイだろレティ」 「そんな事無いわ。普通よ普通。大体虎徹だってジュニアに相当キツイ物言いされてるじゃない」 「それはそれ、これはこれだ。あんまりうちのバニーちゃん虐めてくれるなよ?」 「それは了承しかねるわね。だって好きな子程虐めたくなるタイプだから」 知ってるでしょ?と口角を橈らせれば虎徹の顔が引き攣る。 「バニーも相当だがお前はその上を行くな……」 「年の功よ」 「ハハッ………」 (They're two of a kind.) (ほんっと、似た者同士だなお前ら………) ---------- 2011,05,18 |