自宅に帰ってすぐに胸騒ぎ。 足りない。有るはずの物が無くなっている。空気、で分かるのだ。あれもない、これもない。あぁアレすらも無いじゃないか。 そのまま飛び出し向かう先は一つ。 今にも泣き出しそうな空は案の定、彼女の家に着く前に大粒の涙を落としてきた。 ずぶ濡れになりながらもアパートの階段を駆け上がり、インターホンを1回2回3回――――― 「えっ…、ジュニア!?」 ドアが開けば間髪入れずに滑り込む。後ろ手に鍵を掛け、ひしと抱き締める。 「ど、どうしたのよこんなに濡れて。傘も差さずに―――」 「、何も………何も、言わないで下さい」 どうして何も、言ってくれないのか。 どうして俺を頼ってくれないのか。 勝手にそんな事をして俺が納得するとでも? 「それ以上、何も言わないで……ッ」 あの人と彼女がとても良く似ている事に気が付いたのは、ジェイクを倒して以前より周りがクリアに見える様になってから。 「その言葉を聞いてしまったら。俺は貴女をめちゃくちゃにしてしまう」 「っ、もし…、私がそれを望んでいた、ら……?」 「そうだったとしても…!お願いですから言わないで下さい――――」 貴女はいつも余裕で、僕はいつも焦っている。それがもどかしく、鬱陶しくて。貴女は年の功だとかおばさんだからだとか、年の差を笠に着てうやむやに、"大人らしく"肝心な事は煙に巻く。 でも、気付いてしまったんだ。 「俺じゃダメ、なんですか?どうしたらっ、どうしたら貴女を救える…!?」 貴女は弱い。強いから、弱い。 だから、 「ごまかさないで。俺の目をちゃんと見て…!」 「ジュ、ニア……」 「貴女、言ってくれたでしょう。"私は何処にも行かない。ずっと隣りに居る"って。それは僕も同じです!」 嗚呼、これは焼きが回ったかな――――― 愛を語るのに脳など不要 「ねぇジュニア……私、キミがいつの間にそんな頼もしいヒーローになってたなんて気付かなかったわ」 「レティ……っ」 何か言おうとするバーナビーを人差し指一本で押し止める。 「だから、私も逃げてちゃ駄目、ね」 この子に背負わせて良いものか。これ以上、他人の分まで背負わせて良いのだろうか。引くなら今のうちだぞ、ラティーシャ。 そう、何度も繰り返し自問自答。 「バーナビー」 「はい、」 でも、この瞳の奥に現れたモノに賭けてみようと思った。甘やかして守るだけが愛情じゃない。負荷を掛け、突き放して、時々虐めて。そうやって一人前の漢になるのだ。 「保身なんて考えるようじゃまだまだ私も甘いわよね」 掴んだその瞬間から手放す気なんて無かったくせに、今更何しおらしい振りをしてるんだ。 「………っ!」 ニヤリと流し目。 押し倒して組み敷いて、優しくなんてしてあげない。 ライダースジャケットに手を掛け、うっとりするほど艶めかしい筋肉に生唾ゴクリ。 水も滴る良い漢――――― (覚悟は良いかな、ハンサムヒーロー?) (臨むところですよ、マイヒーロー) ---------- 2011,07,25 |