「ラティーシャってほんっと男見る目無い」 バッサリ切り捨てられたお昼時。新しいヒーロースーツのデザインと機能の打ち合わせの流れからの女子会よろしく、カリーナとネイサンの三人でカフェでランチをとっていれば、どういう訳か私の話しに。生憎今日は最年少のパオリンがいないせいで自然と恋愛話しの流れへ。 「あんなオッサンのどこが良いわけ?他にもっとましな人いるでしょ」 「確かにそうよねぇ…アナタ自身は頭もキレるしキュートな女の子なのに好きなものが機械とアノ人だなんて……」 はぁ……とマリアナ海溝よりも深い溜め息を二人同時に吐かれ、何も悪くない筈なのになぜか申し訳ない気持ちになる。 「同じオッサンならまだワイルドタイガーの方がまし!なのにどうして、よりにもよって……」 カリーナの冷たい視線が痛い。別に良いじゃないか、好きなものが機械だろうがロボットだろうがオッサンだろうが……私が尊敬して止まないロボット工学の第一人者は残念ながら若くしてその命を落としている。そんな追い付きたくてももう決して追い付く事の出来ない彼等夫妻に匹敵する開発研究者に出会ったならば、気にならない方がどうかしている。 「べ、別に良いじゃない…!私が誰を好きになったっ、て……」 二人の気迫に段々尻窄みに。逃げる様にマルゲリータピザに手を伸ばし口に含む。うん、美味しい。 「もっと良い男紹介するわよ?」 「そうそう、若い子ならあたしも紹介出来るし」 小皿に取り分けたほうれん草と牛頬肉のクリームソースパスタをフォークに巻き込み、一口。 「もう!私はイケメンボーイでも空かした青年でもなくて斎藤さんが良いの!」 グラスのハーブティーを空にして立ち上がれば、二人の呆れた顔。全く彼女達は何を勘違いしているのだろう。そもそも私は、頭スカスカな顔だけ男や甘ったれたお子様なんかに時間を費やしている暇など無いのだ。その点、斎藤さんは頭は良いし発想は奇抜だが有用性のあるものばかりで、おまけにちょっとしたユーモラスさも持ち合わせている。どう考えても後者しか選択の余地は無い。 新しいヒーロースーツのデザイン画と設計図とその他諸々の重要書類を抱え、一足先に休憩終了。 「じゃあ私、研究室に行ってくるから。新しいヒーロースーツ期待しててね」 ウインク一つで軽い足取り。呼び止める声は聞こえない振りをして片手を挙げ手を振る。多分、彼はもう新しいスーツの開発に取り掛かっているだろう。 愛嬌 「斎藤さん遅くなりましてすみません…!」 『問題ないよ、まだ昼休憩終了5分前だ』 「えっ?あぁ、はいそうですけど」 マイクや拡声器を通さない声は集中しないと聞き逃してしまいそう。 『それより、ヒーロースーツ共同開発の件だけど、どうなった?』 「あ、はいこれが書類と一応二人の希望を元にして作ったデザイン画です」 『ふん、中々良いデザインじゃないか。でもここはそうだな……もう少し機能性を重視して―――――』 ペンと定規を取り出して早速図面と楽しそうに格闘を始めた斎藤さん。新しい玩具を与えられた子供みたいに嬉々とした表情と科学者としての真剣な眼差し。どちらも私の大好きなものの一つだ。 いつか彼のようなメカニックになるのが今の私の憧れであり目標だ。 誰の為でも無く尊敬して止まない今は亡き夫妻の一人息子の為に――――― (全く君があのブルックス夫妻の愛弟子だなんて驚いたよ!世の中ってもんは案外狭いもんだな!) (斎藤さんもう少しマイクのボリューム下げて下さい!鼓膜が…!) (Love well, whip well.だよ!そんなんじゃいつまで経ってもバーナビー専用のスーツなんて造れないぞ!!) (ちょっ、だから斎藤さん!そんな大きな声で言わないで下さい!本人に聞こえたらどうするんですか…!) ---------- 2011,05,19 |