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有り難き悪戯



クリスマスまで一週間を切った日曜の昼過ぎ。そろそろいい加減プレゼント買わないとと思い、取り敢えず買物をしにショッピングモールに来てみたはいいものの、あてもなく人混みを彷徨い続ける事に早々に飽きて千秋はベンチに座り込む。大抵買物に出掛ける時は目的が明快で、何を買うかどんなものを買うかを決めてから来るので、こうして現地であーでもないこーでもないと悩むのはどうも苦手だった。


「あー…くっそぉ…何買えば良いの。もう帰りたい」
「帰りたいってお前…来たばっかじゃねぇか」
「だって人混みが嫌過ぎて…」
「レースのスタート前にくらべりゃどって事ねぇだろ」
「それはそれ。これはこれ。進行方向もスピードも定まってない有象無象の集団て本当無理…」


到着して30分も経たないうちに音を上げ休憩しようと言い出した千秋に、流石に荒北も呆れて溜息すら出ない。


「取り敢えずなんか飲み物買ってくっから、東堂にでも電話してみればァ?」
「東堂か…あんまり役に立ちそうもないけど致し方ない…」


そう言って携帯を取り出し東堂に電話をかければ3コール以内に繋がる。相変わらずの弾丸トークをかましてきそうな「もしもし」に被せるように「クリスマスプレゼント、何が良いと思う?」と言い放つ。先手を打たれ、少し不満げな声になったがそんな事、今更気になどしない。


「付き合い長いとさぁ何あげていい悩むんだよね」
「何だ、千秋はそんなに毎年オレのクリスマスプレゼント悩んで選んでくれてたのか!」
「いや、お前のじゃねぇよ!東堂のは毎年その辺で見繕った適当なカチューシャだバカ」
「な、なんだと!酷いぞ千秋!!もっと真剣に選べ!オレの美形を引き立てる様な素敵なカチューシャを選べ!」
「やだよめんどっちぃ…いやだからそんな話しがしたくて電話したんじゃないの!寿一と新開へのクリスマスプレゼント!何か良い案ない?」


再び、今度ははっきりと相手を指定してから何が良いかを尋ねる。


「マフラーや手袋はどうだ?」
「却下」
「ブランケットは?」
「高校の時にあげた」
「パワーバー一年分!」
「半年分なら中学の時にあげた。因みに半年も持たなかったよ」
「自転車のパーツは?いっそ長靴のお菓子なんかどうだ」
「大学別々になった今、どのパーツが欲しいか分からないから却下。長靴のお菓子は散々小学生の頃に上げたから却下」
「じゃあ何が良いんだ!」
「それに困ってるから電話したんでしょうが!!」


出す提案出す提案をことごとく却下された東堂はついに電話口で叫ぶも、同じくらい千秋に怒鳴られ、気圧された後、溜め息。


「プレゼントって選んでる時凄く楽しいんだけどさぁ、それでも時間は限られてるからあんまり悩んでられないしってんで仕方なく東堂に電話したのにやっぱダメだったか…」
「おい、まるっと全部聞こえているぞ」
「聞かせてるの」


はぁ、とわざとらしく電話越しに溜息を吐いてみせる。


「そんな事より荒北のはどうなんだ」
「靖友?あぁ、そっちは大丈夫。なんか大体今何が欲しいとかどれが喜びそうとか分かるから、あんまり悩んだ事ない」
「チッ………惚気か…」
「え、何?」
「何でもない」


散々、他人のクリスマスプレゼントを考えさせられた挙げ句、とどめの一発が良く見知った友人二人の惚気を聞かされげんなりと東堂は肩を落とした。


「兎に角、フクも新開もお前から貰えるプレゼントなら何でも嬉しいと思うぞ」
「うわ、出たよ。良い事言った風を装ってその実、考えるのが面倒だからって結局こっちに丸投げする発言」
「なぁ千秋、今日オレに冷たくないか??」
「そう思うならもっと良い案考えてよ」



有り難き悪戯



結局大した助言は得られぬまま電話を切り、その直後、温かい飲み物を買ってきてくれた荒北が戻ってきた。


「で、東堂は何だって?」
「んー…予想通りな感じ」
「ダローネ」


どうしようかねぇ…と忙しなく行き交う人々を眺めながらホットココアをすすっていれば、ふと、このクソ寒い中ハーフパンツで闊歩するシャレオツ系男子が目に留まる。そしてビンゴ。


「靖友!決まったよプレゼント!」


急に勢い良く立ち上がった千秋にビクッとする荒北。一方千秋はそんな事など気付かぬ様子で、先程まで疲れた、帰るなどと言っていた人物と同じとは思えない快活さをみせる。
目的が決まれば行動に移すのは早く、あれ程嫌がっていた人混みの中に自ら荒北の手を引いて飲み込まれていくのだった。


「でェ?何に決めたのプレゼント」


そう尋ねれば、不適…いや悪戯を思い付いた悪ガキのような笑みを浮かべた顔で、ちょいちょいと手招きされ、そして耳打ち。


「フハッ!マジかそれ!!」
「良いアイディアでしょ」
「クッソ…ヤベェわ…千秋のセンス最高だわ」


人目を憚らず爆笑する荒北を前に、ご満悦な様子の千秋。


「必需品には変わりないし、寿一も新開もあんまり頓着してそうにないからこれを機に、ね」
「あぁ…まぁ確かに」


荒北はクククッと未だ込み上げてくる笑いをこらえながらも、大賛成な様子。
かくしてクリスマスプレゼントも無事決まり、あとはクリスマス当日、受け取った本人達や周りがどのような反応をするのかを想像し、楽しむのだった。



(新開、千秋と荒北からクリスマスプレゼントが届いているぞ)
(おー、毎年有り難いな)
(今年は何だろうか。ん?これは……)
(ヒュウ!お揃いのシェイバーと保湿クリームとはやってくれるなあの二人も)


(選手たるもの、お肌の手入れも欠かさぬように!)

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2014,12,25