後期試験も終わって、部活もオフシーズンに入り大きな大会もしばらくないので久しぶりに丸々二日、二人揃って何の予定もない土日を控えた花の金曜日の夜だと言うのにどうにも荒北の機嫌が悪い。 待宮と喧嘩でもしたのかな?と最初は思ったがどうもそうではないらしい。 「なーんか今日機嫌悪いよね?」 「別に。気のせいじゃナァイ」 嘘を吐け。顔がめちゃくちゃ不機嫌ですって主張しているじゃないか。 眉間にこそ皺はよってないけれどやや下さがりに引き結ばれた口が何よりの証拠だ。 「いや、絶対機嫌が悪い。あんなに楽しみにしてた花金なのに全然楽しそうじゃないし」 何か不満があるならはっきり言ってくれない?とややしつこく尋ねれば舌打ちを一つ。 「じゃあ言わせて貰うけどな、」 そこで一拍置かれたので、ん?何かな?と耳を傾ける。しかしそれは間違った行動だった。すぐさま近付けた耳がキーンと耳鳴りを起こす声量が飛び込んできた。 「甘ったるい臭いさせてんじゃねェよ!」 「え…?」 「ナァニ色気づいてんのか知ンねェけどこっちはお前自身の匂いが嗅ぎてェっつーのにこれじゃあ全然おめェの匂いがしねェ」 心底不快だと歪ませた顔をしながら腕を思い切り引かれる。お互い座ったままとは言え、勢いに負けバランスを崩し荒北の肩に倒れ込む。 スンスンと首筋の匂いを嗅がれれば、やっぱクセェ…と一言。それは流石に傷付く。 「取り敢えず風呂入ってこい!」 「え、夕飯は?」 「ンなもん後だ後!」 愛すべきエゴイスト 結局、風呂場に半ば強引に放り込まれた後、素直に夕飯が食べられる訳もなく、逆にカブカブと私が荒北に食べられた。元々その予定だった訳だから多少、順番が前後したとしてもまぁ別に問題はないのだけれど。 お腹いっぱい欲を満たし機嫌が直った様子の荒北は、再び首筋鼻を寄せスンスンを匂いを嗅ぐ。 「やァっとお前だけ匂いに戻ってきた。もう二度と変な臭いさせんじゃねェぞ」 「うっす…」 とは言ってもあの匂いの原因は私ではなく、昼間私の友達が「新しい香水を買いに行きたいけれどデパートの化粧品売り場は一人じゃ行きづらいから付いてきて」とせがまれ仕方なしに付き合ったが故なのだが。取り敢えず、もう香水のテスター巡りには誘わないよう今度会った時にでも伝えよう。 「本当、姑もびっくりな嗅覚をお持ちで」 「あ?何か言ったァ?」 「何でもないデス」 そもそも私の匂いってどんな匂い何だろうか、と嗅いでみるも、情事直後の火照った体からは先程風呂に入ったばかりなので石鹸やシャンプーの匂い。それに混じってほんのりと荒北の匂いがするだけだった。 「そろそろ私はお腹が空いたのですが」 「さっきまで散々オレの事喰ってたくせにィ?」 「セックスで食欲まで満たせるほど燃費良くないし」 早く夕飯食べようよ、と上からカブリと深く口付けてベッドから誘い出す。 「折角昨日から鶏モモ肉漬け込んどいたんだからぱぱっと揚げて食べよう?」 言い終わらないうちに荒北の腹の虫が肉を食わせろと主張する。空気の読める腹の虫に苦笑しながら短く舌打ちをし、しょうがねぇなぁなどと言いながらも満更でもない顔で起き上がる荒北を見ながら、あークッソ幸せだななどと口には出さず一人心の中で惚気た。 (しっかしまぁ、冬だからって調子に乗ってガブガブとしてくれちゃって) (別に良いだろ、厚着して見えなくなるんだから) (冬でも女子は首元開いた服着るんですけど) (ンな事知るかァ!徳利セーターでも着とけ! (徳利って…) ---------- 2014,12,14 |