「おまえ、死ぬのか?」 その時は気まぐれだったのか、それともその綺麗な髪色に惹かれたのかは分からないが、自分に何の利益も生まないそいつに何故か声を掛けていた。 戦争孤児。攘夷戦争真っ只中の当時、それは珍しいものではない。戦や病、強盗や焼き打ちで両親を亡くしたり生き別れたりは無論、口減らしで捨てられたり奉公先の仕打ちを苦にして飛び出したりと事情は様々だが、兎に角孤児なんてもんは改めて気に止めるようなものではなかった。 それこそ、普通ならば色々な事に興味を持つであろう幼子ですら、己を生かす事に必死で他人の生き死にに口出し出来るほど余裕も気遣いも出来る生き方などしていない。各言う自分も五歳にもならない餓鬼ながら、他人は他人、己の損得勘定を優先して生きていた。無論、そうするしか生き延びる術がないからだ。しかし、気が付いたら他人に気を留める言葉が口を吐いていた。 「おい、聞いてんのか」 「―――オマエ、なに……?」 「は?何とかじゃなくてどうしたって聞いてんの」 「べつに」 「べつにっておまえ、んなところでねてると烏に死体とまちがわれて喰われちまうぞ」 「……………」 あからさまになんだコイツ面倒臭いと言った目で見られる。しかし端からそんな行動は想定の範囲内、構わず話掛けようとすると僅かに赤く右足首が腫れている事に気付いた。 「あ……おまえ足、ケガしてんのか」 「――――ちょっと、ひねっただけだ」 渋々そう言ってそいつはこれ以上の関わり合いはごめんだと言った風にそっぽを向く。会話は終了。これ以上は無駄だ。しかし何が自分を突き動かしたのかは知らないが、無理矢理腕を引っ張り山の様に積まれた死体とゴミの上から起き上がらせ背中におぶっていた。 「なっ、なにしてんだよ…!」 「うるせー黙っておぶられてろ、しらが」 自分の突拍子もない行動に驚きつつも、そいつは無駄に抵抗されることはなく大人しく背中に収まった。自分よりほんの少し小柄とは言え、子供の小さな体で人一人おぶると言うのは案外大変な事で、けれども、よたつきながらも一歩一歩土を踏み締めながら明日をも知らぬ無情な真っ直ぐな一本道を歩いてた。 世界が広がる色を見た 助けるとか可哀相だとか責任感や同情感が沸いて出た訳では無くて、本当にただ、日の光りに透けて煌めく銀色の髪に目を奪われたのだ。 血と油と"肉"が腐る臭い。硝煙と土煙が立ち込め蛆と蠅、烏に野犬らと群がって一緒に食べ物を漁る日常。死と生が隣り合った存在であると最も理解し易いそこで、私達は出会った。 (バッ、しらがじゃねぇよ…!) (知ってる。きれいなぎんいろだ) ---------- 2011,04,25 |