久しぶりに昔の夢を見た。悪夢、ではなかったと思う。現に、魘されて目が覚めたわけで無くちゃっかり寝坊までして起きたから。 容赦なく差し込む日差しから逃れる様、寝ぼけ眼のままもぞもぞと布団を弄りつつ床から抜け出すタイミングを見計らう。しかし、徐々にハッキリとしてくる頭でふと、何かが足りないことに気付く。 「――――壱季ッ!?」 途端、ガバリと掛け布団を跳ね退け跳び起きる。家の中に人の気配は無い。慌てて着物を引っ掴みバタバタとズボンを穿き着物に腕を通し着替え、そのまま玄関に向かおうとした時だった。居間のテーブルの上に白い紙切れが置いてあることに気付く。 『どうせ昼頃まで寝てるんだろうし、冷蔵庫に何も無いから近くのスーパーまでちょと買い物に行ってきます。 P.S. いちご牛乳しか入ってないってどういう生活してんの!? 九時三十分 壱季』 時計を見ると十一時を回っていた。安堵に近い溜息を吐くと気の抜けたように椅子へ座る。自分は何をそんなに焦っているのだ。昨日の今日で、それも態々あんな荷物を持ってきておいて居なくなる訳が無い。 チクリと胸の奥が痛む。 再びらしくない溜息を吐いていると、騒がしい声と共に玄関が開く音がした。反射的に立ち上がり玄関へ急ぐと、大江戸スーパーのレジ袋を一つずつ手に提げた壱季と神楽、それから両手に袋を提げた新八が揃って居た。 「あー重かった。神楽ちゃん新八くんありがとね」 「何言ってるネ、これくらい礼には及ばないアル」 「それにしてもこんなに何を買ったんですか?」 「食べ物もそうだけど定春のエサとか日用品とかあとは……あれ、?銀時どうしたの?」 「何ボーッと突っ立て居るアルか。さっさと運ぶヨロシ!」 「お、おう…」 先程の静けさとは打って変わって急に賑やかになった我が家にいつもの日常を感じる。取り越し苦労、と言うか有りもしない不安に駆られた己にこっそり苦笑してから、原型を止めない程パンパンに詰め込まれたスーパーの袋を持ち上げる。 「うわ、重てぇ。取っ手千切れそうじゃん」 「だって最近エコだ何だって少ししかレジ袋くれないんだもん」 そう言って壱季は脱ぎ散らかされた神楽の靴と、新八と自分、それから銀時の履き物綺麗に揃える。その後ろ姿に銀時は懐かしさと時の流れを感じた。 歓笑 「――――銀時」 「、ん……?」 「ただいま」 「嗚呼、おかえり」 一瞬キョトンとした後、柔らかいトーンで返事をする。そのやり取りが妙に嬉しく、レジ袋を持って居間への廊下を半歩先に歩く銀時に気付かれぬ様、壱季はそっと笑みを零す。 (出来ればアイツらも、ほんの少しの幸せに笑みを零せていたらいい) ---------- 2011,03,22 |