「しっかし良くここが分かったよな」 「あぁ…辰馬に聞いたから」 辰馬と連絡を取り合っている事に多少驚きつつも、まぁ商売柄一番連絡が付きやすかったのだろうと納得する。そもそも自分を含めた残りの三人は碌な職業じゃないのでそうそう連絡の付けようがない。あの後、軽く近状報告的な会話を交わしお互いの現状を把握した後、壱季の当分の間此処への居候が決まった。最も、金が有る料理も出来るそんな彼女にはむしろこちらから頭を下げてでも居てもらいたい存在であるのが本音。 湯上がりの熱を冷ます為、万事屋のベランダから歌舞伎町のネオンを見ながら煙管で一服。夏の薄い寝巻用の浴衣が夜風にはためく。 「で、さぁお前、ほんとは何しに来たの」 「何が」 ぷかりと吹かした紫煙が夜空に馴染む。いつの間にかベランダに出て隣に並ぶ銀時に、壱季は手摺りにもたれたまま視線だけを向ける。緩く上に束ねて見えた白い項と朱い後れ毛の色彩にゴクリと生唾を呑む。 「本当はアイツの事まだ捜してんじゃないの?」 「何それ嫉妬?」 「ばっ、おま違ぇよ」 「ふーん」 「信じてないでしょ」 「いや別にどうでも良いし。そんなことより……」 一呼吸、置いてニコリと顔を上げる。無論、目は笑ってなどいない。 「何、この手?」 「何ってナニ、?」 ヘヘっと笑いながら重ね合わされた衿元からスルリと胸へと忍び込んで来た手を、壱季はギュッと抓り上げる。 「イテテテッ!」 「雰囲気に流される訳ないだろ馬鹿」 「ハハ…相変わらず厳しいネ……」 「でも、」 「―――ん?」 「乗って上げなくはない」 コツリと煙管の雁首を手摺りに打ち付けて灰を落とし、ニヤリと不敵な、否、むしろどちらかと言えば妖艶な笑みを口端に湛える。 「えーっと…」 「ちゃんと誘ってみなさいな」 「煽ってる様にしか聞こえないんだが?」 「勿論、煽ってるつもりだけど?」 「ほんっと質悪ィ……」 壱季のしたり顔にガシガシと銀時は襟足を掻く。生憎今夜は狙い澄まし様に神楽は新八の家に泊まりに行っており不在。少なくともああ見えてコイツはからかったり態と煽る(相当悪質な煽り方だが)様な真似はすれど、誰彼構わず済し崩しに関係を結ぶ女では無い。と言うことは、昔のアレはまだ少なからず有効と言う事だろう。取り敢えず都合の好い方向へ思考。 「嫌なら一人でマスかいて寝れば」 「全力で誘わせて頂きますッ!!」 積もる話しはあれど、話しを聞くより身体に聞いてみろって事ですか。 「―――で、?」 「ヤらせてくださ―――イデデッ!!嘘です冗談です!」 ふざけ半分、けれど意外と半分本気で発した言葉は無論却下される。 「" "」 改めてそっと耳元で囁いた言葉は多分、その時銀時が出来る最大限の誘い文句だっただろう。 「甘い物好きだからって口から甘い台詞はやっぱ出ない、か」 はぁと溜め息を吐くも、存外満足しているのは緩められた口元で分かる。 「まぁ良い声で啼いて下さいな」 「それ俺の台詞!」 おっと、ここから先は立ち入り禁止 手を引いて室内に抱き寄せれば良く知った匂いが鼻をくすぐる。束ねられた髪に刺さった簪をスッと引き抜けばシャンプーの香りと共に朱い髪が踊る。項に顔を埋めベロンと舐めれば壱季はクスクスと笑う。そのままソファーになだれ込み右手を着物に忍ばせ肌をまさぐり熱を共有すれば、何故だか急に色々な想いが込み上げてきて、鼻の奥がツンとした。きっと泣きたいのはアイツの方だろうに―――― ("ただいま、それからおかえり") (私はその言葉だけで充分だから、今日くらい泣いても良いのよ) (ばっ、これは目から鼻水出そうになっただけ…!) --------- 2011,02,22 |