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『綺麗だな…』


そっと誰とも無く呟いた彼等の目線の先には耽美に能を舞う朱い華。ここは戦場だけれども、きっと俺達が見て来た何よりも強く美しい華だ。黄金色の空に朱い髪が揺れる度、白銀の瞳が煌めく。向かう方向も志す想いもてんでバラバラだけれども、この華を枯らしてはいけない。その決意だけは等しく同じだった。
例え、何度明日を掴もうともアイツが泣いてちゃ意味がねぇ。テメェはそれでもその途を進むのか――――










どこまでも鬱陶しい程に赤い地平線。鉄錆と硝煙と泥に混じった腐乱臭が混在し物理的にも精神的にも吐き気のする光景、それが私達の居る戦場という場所だ。そこで平然として居られる私達は最早鬼。それでも引けぬ意地と憎悪に限りなく近い想いがあったから、刀を振るうしかなかった。


 やしゃ【夜叉】
人を害する鬼神。
羅刹と並び人を傷つけ、人肉を喰う悪鬼。



その男は白夜叉と呼ばれ敵味方両軍から畏れられていた。鬼気迫る太刀筋、無駄の無い動き、刀の切っ先の様にキラリと鋭く光る銀の髪と白い装束を血飛沫で染め上げ、血のように紅い瞳は見た者を恐怖に凍らす。敵は恐れ戦き味方すら近寄り難しと距離置く。その実、結局は皆畏れ、そして心のどこかで疎んじていた。





 しゅら【修羅】
(スラとも)争い。闘争。
阿修羅の略―天上の神々に戦いを挑む悪鬼。絶えず闘争を好み地下や海底に住む。



戦場は限りなく修羅で溢れていた。その修羅の軍団を男は率いて幕軍を凌駕して見せた。鬼のように強い兵隊等は窮地に立たされた攘夷軍の希望であり、また、戦後の最大の忌物でもある。そしてその男は深い闇を抱え今もまだ叫んでいる。





 らせつ【羅刹】
悪鬼の通名。
足が速く大力で人を魅惑し、また人を喰う。



燃える血のように朱い髪を振り乱した鬼に毒のような白銀の瞳に射竦められたならば、命無き物と思え。あれは正真正銘の人喰い鬼。長刀を振りかざす力に比べてあの身の軽さ、人の為し得る業ではない。あれは悪鬼羅刹、一度相見えたらば骨の髄までしゃぶられよう。










負けを悟ったあの日から、お前は独り闇に身を置いた。構いやしない。お前が何をしようと何を壊そうと構いやしない。けどよ、アイツが笑えない世の中にしようってんなら俺は全力でお前を殴る。勘違いするな。間違えるな。よく考えろ。お前が一番判ってるはずだ。アイツが望む幸せってやつをよ……



ヲ彩ル濃紺ノ空ト墓



辛い過去なんてない。苦しい思い出なんてない。
あるのは憎しみの過去と哀しい思い出だけ。
鬼は誰よりも涙する。彼の者の為に――――

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2011,02,14