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06



ある日の夜中、急に尿意を覚え目が覚める。きっと寝る前に調子に乗っていちご牛乳をがぶ飲みしたせだいだ。ぶるりと身震いをしてからもう一度目を閉じ眠りに落ちる努力をするも、朝まで我慢出来そうもない。仕方無しにのそのそと布団から這い出しトイレに立った。暗く静まり返った廊下は、トイレまでたった数メートルだが妙に不気味であまり得意ではない。ふぅと一呼吸置いてから小さく気合いをいれトイレに向かう。

――――ガタリ

するはずのない物音が聞こえる。ギクリと固まりもう一度耳を澄ますと、今度は呻き声が聞こえるではないか。たまらず居間に駆け戻り襖を遠慮無く開けて布団に頭からすっぽりと潜り込む。


(ヤバいヤバいヤバい…!これヤバいよ銀さん変な音聞いちゃったよ…!)


バクバクと脈打つ心臓。冷や汗が背中をぐっしょりと濡らす。


(ま、まままさか幽霊なんて、ね。そんな馬鹿な……)


苦笑いを零しながらこれは夢なんだと自分に言い聞かせ懸命に寝ようとするも、尿意が邪魔をしてうつらうつらとすらもしない。


「もしもーし………神楽ちゃーん……」


押し入りの襖を開け、小声で呼び掛けるも起きる気配は皆無。


「神楽ちゃーん?おーい神楽さん…?」


銀時の再三の呼び掛けにもピクリとも反応を示さないばかりか、神楽はグオォォと大きな鼾を響かせボリボリとお腹を掻く。


「ちょ、神楽さんお願い、起きて!!銀さんの膀胱のピンチ!良い歳してお漏らしとか洒落になんないからァァ!!」


こうなったらもう成り振り構っていられない。神楽の両肩を掴みぶんぶんと揺さ振り起こす。


「んー……何アルかこんな夜中に…」


ようやくゴシゴシと瞼を擦りながら神楽が目を覚ます。それを確認するが早いか直ぐさま事のあらましを極々都合の良いようにかい摘まんで説明し、トイレの手前まで連れて来る(むしろ付いて来て貰うと言った方が正しいが)事に成功した。


「良い歳して一人でトイレにも行けないアルか」
「バッカおま、ちげーよ!別に幽霊なんて怖くねぇよ!」
「銀ちゃん、誰も幽霊云々なんて言ってないアルよ。少し落ち着くネ」


無理矢理叩き起こされた神楽は普段より冷静且つ辛辣な言葉を浴びせる。大体夜中に物音と言えば幽霊より先に泥棒だろ、と言うツッコミはこの際敢えてしないでおこう。
トイレのドア前まで来てみれば確かに物音とそれから呻き声に似たものも聞こえる、が、神楽は何の躊躇いもなくドアノブに手を掛け―――――


「う、わ、そんないきなり…!」
「ギャーギャー煩いネ、漏らしたくないならさっさと開けるしかないアル。オイ、幽霊だか泥棒だか知らねぇけどウチには甲斐性無しの天パしかないアルよ」


一気にトイレのドアを開け放つ、とそこには振り乱された朱い髪。


「ギャーッ!!オバッ、オバオバ、ケ……え?あ、れ……壱季…?」
「なに……?叫ばないでくれる?頭に響、く……っうぇ…」


そこに居たのは泥棒でも幽霊でもなく、便器に顔を埋めて勢い良くビシャァァと嘔吐する壱季の姿。


「てか酒臭っ!有り得ない位酒臭いよこれ」
「完全に酔っ払いアル……」


物凄い勢いで立ち上るアルコール臭に顔をしかめつつ銀時はへたりこむ壱季の背中をさする。



混ぜるなキケン



「いやさぁ、お登勢さん所で呑んでたんだけど久しぶりの酒だったからつい調子に乗って色んな酒を、ね……」


ハハッとげっそりと乾いた笑いと共に再び大量の液体を吐瀉。


「どうせすきっ腹にドカドカ呑んだんだろお前は」
「うん、まぁそれも含めてだけど、呑み合わせの良し悪しってあるんだねー……」


胃の中でちゃんぽんされた様々な酒達が何度目かになる吐き気と共に嘔吐され、空気中のアルコール濃度は更に上昇。銀時は自らの尿意の事など忘れ、こりゃ朝まで続くなと肩を落とす。もちろん、神楽はとっくに呆れたと寝床へと戻り寝息をたてている。


(どうしてこう、ウチの女達は躊躇いなく人前で吐くのかね……)
(銀時ぃ塩水ー……ッオェ)
(あーはいはい)


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2011,04,25