熱で支配
「すみません」
「…はあ、全く名前は…」
全力で床に頭をごりごり擦り付けている私とベッドに座り、呆れた目で私の事を見下ろしているヒロト
一応…一応、彼氏と彼女のハズ
「…あのさあ、これ、どういう事かな?」
「え、えっとー…」
ぴらり、ヒロトが持っていた一枚の紙の表面が見えた。
その紙にはたくさんのバツがいっぱい、それと赤くて大きな字で26と書かれていた
その紙がテスト用紙なのは明らか。
「これ、この間の数学のテストだよね?」
「…はい」
「26って書いてるように俺は見えるんだけど」
「…はい」
「これ、確か100点満点のテストだったよね?」
「…はい」
「俺が何を言いたいか、分かる?」
「……、分かりません」
「勉強しろ」
あ、あれ?
確か私は、今日は練習が無いから放課後は遊びにおいでってヒロトに言われたからヒロトのお家に遊びに来たんだったような…
なんで私、ヒロトに数学教えられてるの…?
「名前?聞いてるの?」
「うえ!?あ、うん!」
「全く…ホントに勉強する気あるのかい?」
「そりゃあもう!(ヒロトがやらせてるんだよね!なんて言えないよ…)」
「そう、なら良いけど…このテキスト一冊終わらせないと家帰らせないからね?」
嘘だあああああ…
「あ、ほらここ…間違ってる」
「え?どこ?」
「ここだよ。どうやったらこんな間違いするの?」
「わ、私に聞かないで…!」
なんで私こんな真面目に勉強やってるの…?
静かな部屋に私ががりがりとシャーペンを動かす音だけが響く。
ヒロトと言えば私が問題を解いているのを見ているかと思えばすっと視線を外し、外の風景を眺めたり自分が持っている赤ボールペンを指先を使ってくるくると回したり…とにかく、とても暇そうに見える
ヒロトの器用にペンを弄ぶ指先や外を眺めるぼんやりとした眼差しに目を奪われて、思わず見入っていると、視線に気付いたのかヒロトはペンからこちらに視線をずらした。
「なにぼーっとしてるの。俺の顔に見惚れてる暇があるんなら勉強しなよ。ね?」
「はあ!?私はただ…」
「ただ?」
「ペ、ペン回し上手いなあって思っただけ!」
「へえ?」
ヒロトの意味ありげな笑み。
ヒロトはいつもそうやって全て分かり切った顔をして笑う。実際私がヒロトを出し抜けた事なんて無い訳だけども。
相手にしてはいけないと思い、ヒロトからテキストに視線を移す。
しかしとんでもない量だ。こんなのが今日中に終わるのだろうか
私を見てニヤニヤしていたヒロト。
だけど急に何か閃いたのか「あ、そうだ」といって普通の顔に戻った
「あのさ、名前」
「なに?」
「テキスト、早く終わらせてよね?」
「そんなのわかってるよ…」
「今日中に終わらなかったら俺、今日泊まるからね?名前の家に」
「、は」
ヒロトがぽろりと溢した問題発言に慌ててテキストからヒロトに視線をずらす
先程とは違い、にこり笑うヒロトは、私を見つめながらもう一度さっきの発言を繰り返した。
「だから、今日中にそのテキストが終わらなかったら帰らないって言ってるんだよ」
「は?いやいやいやそんな無茶苦茶」
「無茶苦茶じゃないよ?君のお母さんならきっと歓迎してくれるだろうしね」
うっ、と思わず言葉に詰まってしまう
私の母親はヒロトが大好きだ。
顔立ちは整っているし、何でも軽くこなしてしまうヒロト。確かに嫌われる理由が見当たらない
初めてお母さんにヒロトを紹介した時は「あんたどうやってあんなイケメン釣ったの!?かなりの上玉よ!」と言われた物だ。
そんなヒロト大好きっ子なお母さんがヒロトが泊まる事を拒む訳が無い
私が悟った事を感じたのかヒロトが「ね?」と言って口角を釣り上げて笑う
…勉強しよう
部屋の窓から赤い光が差し込んでくる事から、既に日が沈みかけている事がわかる。
テキストはといえば、後はこの最後の問題を解くだけ。
「終わったかい?」
「ん、もう少し…終わったー!」
最後の問題の答えを書き殴り、シャーペンを机の上にほおり投げておもいきり伸びをする。
なんという解放感。
ヒロトが「よくやったね、お疲れ様」といって私の頭をぽんぽん、と撫でてくれる。それだけで私は今日1日を勉強に費やして良かった、と思った。
「さて、名前がちゃんと勉強を終わらせた事だし俺はそろそろ帰ろうかな?」
「え、あ、うん!もうこんな時間だもんね!」
「ん?もしかして泊まって行って欲しかったの?」
「ば、違うよ!」
慌ててヒロトの言葉を否定する。
だけどヒロトが泊まって行ってくれたらくれたで楽しかったんだろうな、と素直になれない自分に落胆した。
「またの機会に泊まりには来させてもらうよ。名前も望んでるみたいだしね」
「だ、だから違うってば…!?」
必死に否定しているとぐいっと腕を引かれた。
そして私のではない、人の体温
ヒロトに、抱き締められている。
堅いヒロトの胸板の感触や鼻腔をくすぐる甘い匂いに心臓はばくばくするわ、頭はくらくらするわで大忙しだ。
私の腰に腕を回したまま片方の手を使い私の顔を上向きにする
そしてその体制のままヒロトは私に顔を近づけてきた。
唇に暖かい感触。
ヒロトにキスされているんだと確信した。
触れるだけの、優しいキス
幸せすぎてぼんやりしていると、ゆっくりとその暖かいく
同時に密着していた体が離れていった。
少し残念に思ってた私
「ふふっ、残念だったかい?これだけで」
「ば、ばか…っ」
「これはほんのご褒美だよ。ちゃんと勉強をしていたからね。」
続きはまた今度、ね
そう言ってヒロトは私の部屋から出ていった
私はといえば、しばらくその場に突っ立って、キスの余韻に浸っていた訳だけど
微熱で支配
(触れた瞬間高鳴る)
(脳まで侵される)
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