南雲晴矢


※若干捏造



梅雨特有のじめじめとした蒸し暑い気候には毎年悩まされていた。
じめじめとした空気は気分をも落ち込ませるし、湿気のせいで髪の毛は落ち着かないし…
雨が降ったらもう大変
服は濡れるわ登下校が面倒だわ…。

今年も梅雨は例外無く私を苦しめる。
いつも通りの授業やいつも通りのHRを済ませて、のそのそと帰る支度。
学校指定のだっさいスクバをリュックのような背負えば準備完了。
さあ帰ろうと考えていた時、耳に聞こえたぱらぱらと何かが屋根に降ってくる音。
その音は次第に大きくなっていく。
どうせ…とか思いながらも一応確認のため教室の窓からゆっくりと外の様子を確認してみた。

昼休みの時辺りは空は青く晴れ渡り、太陽はギラギラと容赦無く照りつけ、地上に紫外線をばらまいていたはずだ。
その太陽はいつの間にか姿をくらましていて、厚ぼったいグレーの雲が空をおおいつくしていた。
昼とはうってかわりの天気に思わずため息をこぼしてからふいに思い出すアイツの言葉。

「鬱陶しいんだよ、俺の分の幸せも持ってくつもりかっての」

自分で思い出したクセに胸くそ悪い気持ちになってしまう。
ただでさえ雨で気分が悪くなっていたというのにアイツのせいでさらにテンションが下がってしまう。自分で思い出したクセに。

くっそ
こんな時はさっさと家に帰って寝てしまうのが一番だ。
幸いまだ雨は本降りじゃないし、今のうちに…。



私が昇降口に着いた頃には無情にも雨音はさらに大きさを増し、地に降り注ぐ雨はアスファルトを真っ黒に染め上げて、ところどころに水溜まりを作り上げていた。
ちくしょうちくしょう。
嫌なこと続きでホント滅入ってしまう。
ホントにさっさと帰ろう。寝ちゃおう。
全力でバス停まで走っていけばそこまで濡れなくて済みそうだし。よし、頑張れ私。


髪の毛が乱れるのもギリギリまで短くしたスカートがはらはら舞うのも気にせず走り続ける。

びしゃん、と音を立てながら何度も何度も水溜まりを踏んづけているからか、靴下やローファはもうびしょ濡れ。うえ、気持ち悪っ
信号が点滅していようが、赤だろうが青だろうがお構い無しに横断。
大丈夫、元から車通りの少ない通りなんだし別にいいでしょ。
走りながらちらりとケータイの時計を確認。うげ、もうすぐバス出ちゃうじゃん。急がないと。
このバスを見逃したら当分次のバスは来ない。三十分程待たされるはめになってしまう。それは嫌だ。

向かいから来る通行人には目もくれずもっと速く、もっと速く。
バス停が見えてきた…もうバスは来ている。よし間に合う。

ふと後ろから聞き覚えのある声が飛んでくる。

「危ないじゃないか、私に当たったらどうしてくれる!」

相手が分かったので走りながら後ろを振り返り「うっさい、ばーか!」とか言ってやろうと振り向いた時、背後から車の音が。
やばい、と思った時には時既に遅し。
大型トラックのタイヤが水溜まりの表面を大きく歪ませると同時にばしゃり、と大きな音を立てながら水しぶきを辺りに撒き散らした。
近くに居た私は当然その水しぶきを直に受ける訳でして。気づいた時には全身泥水まみれになっていた。

最初はびっくりした顔で一部始終を見ていた通行人…もとい涼野も泥水をかぶって道路に突っ立っている私を見るなり盛大に吹き出した。

「ちょ、笑うなあ!」

「ふふっ…悪い、つい…抑えられなくて」

「…うざ」

「それより、いいのか?アレ」

アレ、と言いながらゆっくりと私の背後を指差す涼野。何かと思い振り向く。


「え、ちょ、ええ!?バス行っちゃったじゃん!くそ涼野!あほ涼野!」

「なんで私のせいにするんだ!それに私だってあのバスに乗る予定だったんだ!お前のせいで!」


そう叫んでからぐっと押し黙る。相手を責めようがもうバスは帰ってこないという事を悟ってしまったから。
数秒間の沈黙の後涼野が口を開く。


「とりあえず、どこか屋内に入るべきだ」

「アテ、あんの?」

「…着いてこればいい」


とか言うもんだからアテがあるんだろうと思い後に続く。そういえば、

「涼野、アンタ傘とかないの?」

「…あったよ」

名字が走ってきた時に吹っ飛ばされて車に潰された。
しかめっ面で呟く涼野。そうかそうか、私が……

「ごめんなさいでした」

「ふん」

「いや、わざとじゃなかったんだってホント」

「言い訳は後で聞く」


ほら、着いたぞ
そう言って目の前の住宅を指差す涼野。
表札には「南雲」の文字
慌てて涼野に抗議をしようとした時には既に涼野はインターホンを押してしまっていた。
逃げる間も無くドアが開き特徴的にも程がある髪と不機嫌そうな顔が姿を現す

「…なんで」

「どっかの誰かのせいでバスに乗り遅れてな。邪魔するぞ」

許可も取らずにずかずかと家に上がり込む涼野を止めようとしたけど、玄関の前で呆然としている私を発見してすっとんきょうな声をあげる南雲。

「んなっ!な、なんで名字が居るんだよ!?」

「なんでって…誰かさんのせいでバス見逃した」

「お前ら…いいから、入れよ」

「は?いいの?」


そう返せばいきなりゴニョゴニョしだす南雲。意味わからないし。
そう思って急かすような目で南雲を見れば南雲は何故か若干顔を赤くしながら話しだす。

「風介居るんだし一人増えようが構わねえよ、それに…」

「それに、なに」

「風呂貸してやるから早く入れっての!そして早く着替えろ!早く!」


半分無理矢理家に押し込まれて半分無理矢理に着替えを渡されて半分無理矢理に風呂に投げ出された。

普段は気の合わなさからか会うたび会うたびに口喧嘩をして涼野に呆れられている私たち。
お互いがお互いの事をいがみ合っているのだから。

しかしその考えは数十分後一変する事になる。



シャワーを借りて、とりあえずお礼だけでも言おうとリビングに向かうと話し声が聞こえたからつい聞き耳をたててしまう。仕方ないでしょ、知らない南雲の一面が見れるかもだし…って私、何言ってんの?


「あいつは着替えを持っているのか?」

「俺の服、貸した」

「ほう?…ようやく素直になった訳か」

「っそんなんじゃねーよ!ただ、」

「ただ?」

「その…す、透けてたからよ、あー…下着」

「ふっ…あはははは!」

「ん、んだよ笑うなよバカ風介!」

「貴様がそんな事を気にするとはな…所詮男子中学生という奴か」

「お前も中学生だろーが!からかうんじゃねえ!」


下着ごときでオロオロする南雲。
考えるだけで笑えてくる。だってあの南雲が、私なんかの下着が透けてるだけでオロオロしてるんだから…なんか可愛い。
実は南雲、シャイボーイだったりするのかな?だったら可愛いな。普段はあんなに口悪いのに。
もうちょっと口を直してくれたら可愛げがあるのになあ、まあそれは私も一緒か。

頃を見計らってリビングに入る。我が物顔でソファーに寝そべる涼野と反対のソファーに座る南雲が一斉にこっちを振り向く。先に口を開いたのは涼野だった


「遅かったね、やはり女子は風呂が長くて厄介だ」

「うっさいな、元はと言えばアンタのせいで…」

「まあ、落ち着いてこれでも食べなよ」


無理矢理押しつけられるソーダのアイス。なるほど、これを買いに来ていたのかな?
でも涼野が人に物をあげるのは珍しいな、と思っていたらどうやら私の考えている事がわかったらしい。


「今日は名字の誕生日だからね。サービスだよ有り難く思って食べなよ」

「え、あ、そっか…私誕生日じゃん」


すっかり忘れてた。ほら南雲だってそんな顔してるしさ。
涼野すごいな。本人ですら忘れてたのに、あ、そうだ。


「ねー、南雲」

「あ?」

「アンタはなんか無いの?誕生日プレゼント」



そう言うと言葉に詰まる南雲。まあわかってたけどさあ…なんかなあ
確かに口喧嘩はしょっちゅうするし犬猿の仲っぽいけど我ながら仲は悪くないと思ってたから。
とか考えてたら


「晴矢、何を渋っているんだい」

「っ、なにが」

「その手に隠してるのはなんだい?そもそも名字の誕生日を私に教えたのは晴矢、貴様じゃないか」


俯いて恥ずかしそうにする南雲とその様子をにやにや笑いながら見ている涼野
確かに南雲は何かを隠し持っている。

え、なにそれ期待しちゃっていいの?
期待しちゃうよ?


「……おめで、とう」





―――――――――

ギリギリでごめんなさい
こんなのでよければ

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