不動明王




帝国学園の購買のパンはとても美味しいと評判がある。
そのなかでも絶妙なソース加減と大食いも大満足のボリュームな焼きそばパンは購買での人気ナンバーワンだ。だから焼きそばパンを買うには誰よりも早く、購買にたどり着く必要がある。なにしろ焼きそばパンは1日十個しか販売していないのだから。


四限目終了のチャイムが鳴り。日直が号令を済ますと共に机に広げたままの教科書やノートはほったらかしにして教室を飛び出す。
そのまま廊下を疾走。中央階段は素通り。中央階段は購買に向かう人でごった返すからね。使う人があまり居ない東階段を使えば人ごみを避けてスムーズに購買の場所にたどり着く事ができるって訳。
そのまま二段飛ばしで階段を飛び降りて購買の場所に猛ダッシュ。大丈夫。まだ人はほとんど居ないハズ…!

と思いきや案外人が居た。ちょっと待ってどういう事なの。だってまだチャイムが鳴って少ししか…

よく見ると購買に居る生徒はみんなジャージ。なるほど、体育が終わって真っ直ぐ購買に来たって事か。
体育館は購買の場所に近い。
くそ、出遅れたか。いやまだ諦めちゃダメだ。

ジャージの集団を無理矢理掻き分けてパンが陳列されている場所へ。焼きそばパンがあるのは左から三番目の列…あった!

神様が私に味方をしてくれた!焼きそばパンが一つだけ余っている。
よし、いける!いける!

焼きそばパンに勢いよく手を伸ばして掴む。そして会計のおばさんに…あれ


「…チッ」
「うげげっ」


またこいつだ。




不動明王。
どうやら私とこいつは何か縁があるらしい。
初めて会ったとき、入学式の日。席が隣だった。
それだけならまだ良い。私だって偶数の出来事、そう捉えていたはず。

だけど私と不動との関係はそれだけでは終わらなかった。


委員会決め。無所属でやり通す予定だったのに偶数先生と目が合ってしまった、とかいうバカみたいな理由で図書委員に任命されてしまった。不動も図書委員。席が隣だからという理由で図書委員。意味が分からない。

それ以外…図書委員の当番も同じだし席替えをしてもほとんど前やら後ろやら…隣やらに不動は居る。不動が何かしらやらかした時にとばっちりを受けるのは私だし私が何かしらやらかした時にとばっちりを受けるのは不動。

気づいたら私と不動は犬猿の仲になりつつあった。

何かあるたびに口喧嘩をする私と不動。何回源田に止められたか分からない。
口喧嘩の後機嫌を悪くしたらしい不動がどこかに消えてから、毎回の如く源田は私にこう言う。

「不動、ああ見えて名字の事は嫌いとは思っていないと思う。気を悪くしないで欲しい。」

いやいやいや、私明らかに嫌われてますからね。むしろ私もあんな奴大嫌いですからね。

佐久間とかも
「お前、不動に好かれてんな」とか言ってるし…意味分からない。


…少なくとも今のこの状況。私は好かれてるようには見えないけどな?



「…ちょっとアンタ離してよ」

「あ?離せって言われて素直に離すバカがどこに居んだよ。お前が離せ」

「これは私が先に取ったんだってば!」

「それを証明できるのかよ。いいから離せ」


く、いちいちムカつく奴だなもう!
佐久間はこの光景を見て尚私が不動に好かれてるって断言できる?出来ないでしょう!


「アンタ忘れたの!?私この前アンタがさぼった分の図書当番やってるんだからね!?」

「それなら名字チャン。この前のあの事件の事はどう落とし前つけてくれるんだよ?」

休み時間に食べていたお菓子が教師にバレそうになった時の事。見つかる前に証拠隠滅、そう思って私は食べていたスナック菓子を窓から外にぶん投げた。それが偶然授業をサボってまで裏庭で居眠りしていた不動の頭に直撃したあの事件の事を言ってるのか…!

粉々になったスナック菓子まみれで私を怒鳴り付けてきた不動の姿はまだ記憶に新しい。


「うるさいなあ、もう!いいからはーなーせー!」

「お前は黙って床でも舐めてろってーの!ハッ、お似合いだぜ?」

「うるさいぞ、お前たち!」





「意味わかんない!」


私たちが邪魔で購買の商品が買えない。
そんな苦情を聞き付けたらしい教師に引っ張りだされて昼休み丸々みっちり説教をされた私と不動。

それだけで済めば良い物をなんと罰だかなんだか…資料室への資料の搬入、整理を命じられてしまった。


「今日は私の誕生日だってのに…さいあく」

「てめェの誕生日なんてどうでもいいんだよ」

「いいから不動は働いてよね!」

「は、誰が。元はと言えばお前が悪いんだろーが」

「はあ!?」


資料の搬入は学校の備品のワゴンを使えばすぐに済んだ。
ただ問題は資料の整理。
帝国学園の資料室は半端無く広いし半端無く資料の種類が多い。
資料を運んできたのはいいけれど資料を入れる場所を探すの、すっごい大変。

帝国学園の規模の大きさをちょっとだけ恨んだ。


「ななひゃく…はっぴゃく…きゅうひゃく…あ、ここだ。」


ようやく探していた棚が見つかった。持ってきた資料を棚にぎゅうぎゅう押し込む。
資料はまだまだあるし不動は働かないし…いつになったら終わるんだろう。
よし、ちょっと喝入れに行こう。

入り口に居たはずの不動が居ない。くそ、あいつ何処行った

…あれ、資料減ってる?
もしかして、アイツが…

確かに奥の方から足音がする。やっと仕事する気になったらしい。
よし、ちゃちゃっと終わらせてしまおう。
どうせだから沢山持っていった方が早く済むだろうと思った私は残りの資料を全部一気にやっちゃう事にした。

「千百…また奥の方か」

資料に打ち込まれたナンバーを見てげんなり。数の桁が大きい程奥の棚、らしい。
棚を探している内に不動に鉢合わせた。丁度不動は棚に資料を入れている。なら無視しちゃっていいよね、よしスルー…

「う、わわわわわ!?」


不動を無視して先に進もうとした、はず。
なのに私とした事が、不動が床に置いていた資料に躓いて、転んで…転んで…

もっと言ってしまうと
どうやら私は転ぶ際不動を巻き添えにしてしまったらしくて。


「…てめェ」


他人が見たらきっとこれは私が不動を押し倒したかのように見えるんだろう。
違うからね!これ事故!私にそんな気無いから!誰が不動なんか襲うか!ばーかばーか!とりあえず不動の目怖い!怖いから早くどきたい!

のに、体が上手く動かない。
…身体が重い、もしかして資料の下敷きになってる…?

「何してんだよ、早くどけ重たいんだよデブ」

「う、うっさい!私じゃないし!資料!資料が乗っかってるのー!デブって言うなー!」


てか顔、近い
十センチくらいしか離れていないから息遣いとか表情とか、凄い良く分かる。
なんだろ、相手は不動なのに…顔が火照っていくのを感じる。
不動も距離の近さを実感したのか、うっすらと顔を赤らめている。


「いっ、いいから離れろ!邪魔なんだよ!」

「う、わ!ちょ、押さないでよバカ!てかどこ触ってんの変態!」

「うっせえ、暗くて見えねえんだよ!こんな貧乳揉んでも嬉しくねえよ」

「だ、誰が貧乳ですってー!?」


またもやひと悶着した後、ようやく立ち上がる事に成功する。
改めて見るとやっぱり不動は顔を赤くして見るからに照れていた。
…ちょっと可愛いとか思った私、目覚ませ。




「よし、これで終わりっと…不動、まだ?」

「チッ…おい、帰るぞ」

不動も終わったらしい。
ん?何この話の流れ
なんか私と不動が一緒に帰るみたいな話に…


「腹減ったからマック奢れ」


成る程そういう訳。
前までの私なら怒鳴り散らしてさっさと帰ってただろう。奢れとか何様!?とか言って。
だけど今の私はおかしいのかな。不動との時間がもっと欲しいって、もっと一緒に居たいって思う私。さっき資料に頭でもぶつけたのかな。



「…ポテトくらいなら奢ってあげる。けど、不動ジュース買ってよね」

「…それ奢りじゃねえ」

なんだ、不動も私と同じような気持ちなの?
だって顔、珍しく笑ってるしね?
そう言ったらキッと目を鋭くして反撃してくる

「うっせえ、いいから早く来い!」



こんな誕生日も、悪くは無いよね





―――――――

帝国の資料室はハリポタの図書室?みたいにデカいんじゃないかっていうさよのイメージ
無理矢理詰め込んだ感じでごめんなさいね


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