▽電話越しの体温

真夜中の二時。
丑三つ時と呼ばれるこの時間に、何故か寝付けなくてぼんやり天井を眺めていると、携帯が震えた。
こんな非常識な時間に連絡を取ろうとするような奴は、俺の知り合いに一人しかいない。

「もしもし。」

『おー、古市。』

「お前な、俺が寝てたらどうすんだ。」

『でも起きてただろ?』

「まぁ…。」

呆れたように言うと、そんな風に返されてしまい何も言えなくなる。どうして分かるのだろうか。

「いきなりどうしたんだよ?」

『いや、別に用はねぇんだけど。』

「ないのかよ!じゃあ何で電話してきたんだよ!」

他愛もない会話などしていると、いつまでも終わらない。電話をしてくると言うことは、何かしら用事があるのだろうと思い促したが、アホなことを言う男鹿に、いつものようにツッコミをしてしまった。真夜中ということを思い出して口を塞いだが、誰も起きてくる気配はなかった。

『用つーか…何だろうな。何か…。』

男鹿が言い淀むなど珍しいので、静かに次の言葉を待った。

『古市の声が聞きたくなった。』

「…はぁ?!」

再び大声を上げそうになって、慌てて口を塞いだ。大声になりすぎないように声を潜めて、口を開く。

「いきなりどうしたんだよ。頭でも打ったか?」

『だから何となくだっつってんだろ!』

「意味分かんねーよ!」

ぎゃあぎゃあと小声で言い合っていると、不意に睡魔が襲ってきた。

「男鹿…眠い。」

『俺も眠くなってきたわ。』

男鹿の声にも眠気が含まれているのが分かった。

「じゃあ寝るか。」

『おぅ。あ、古市待て。』

電源ボタンを押そうとして、すんでのところで留まる。

「何だよ?」

『俺、お前の声聞くと安心するみてーだわ。』



意味が理解出来なくて固まったが、その言葉を頭の中で反芻して、意味を理解した瞬間、顔に熱が集まるのが分かった。

「っ、おま…え!」

『そんだけ。じゃーな。』

「あ、おい!」

電話の切られた音がして、画面を見ると、通話が終了したことが表示されていた。

「何なんだよ、クソ…!」

すぐにメール機能を呼び出して、先程電話していたばかりのやつにメールを送る。きっと顔を赤くしてるに違いない。

「寝よ。」

目を閉じれば、先程まで眠れなかったのが嘘のように、すぐに意識を手放した。





(俺もだよ、バーカ)





みずたま/平林
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