◎当日 古市




今日は十一月十一日。そして古市の誕生日。

今日は学校から帰ってきたら俺んちに行って、いつもみたいにゲームして、それからプレゼントを渡して、あわよくばそのまま一晩中一緒にいられたらいい。というか泊まらせよう。そんなことを考えていた俺だったのだが。



朝、いつものように古市が迎えに来た。それはいいのだが。

「はよ。」

「…おはよ。」

玄関を開け外に出ると、機嫌の悪い古市がいた。どちらかと言えば、機嫌が悪いというより、何か悲しいことがあった、みたいな表情をしている。

「ふ、古市…?」

「何?」

恐る恐る話し掛けてみたら、返事は普通で何だかホッとした。しかし、その顔はいつものような明るい表情ではなく、陰を落としている。
何かやっちまったかな、と思ったから聞いてみた。

「俺、何かしたか?」

いつもならこんなこと聞かないが、今日は古市の誕生日だ。せっかくだから、機嫌の悪い古市よりは機嫌の良い古市の方がいいに決まっている。だから、何かあるなら早い内に解決した方がいいと思った。そう考えて聞いたのだが。

「…何でそんなこと、聞くんだよ?」

何故かさっきよりも不機嫌そうな声で、返事がきた。

「そりゃ…古市の機嫌が悪そうだからに決まってんだろ。」

「男鹿は何かしたと思ってんのか?」

「…まぁ。」

古市には、数え切れないほどの迷惑を掛けていることは自覚している。しかし、どこで古市の機嫌が悪くなるのか俺には分からない。だからこうして聞いたのだ。ところが。

「だったら…たまには自分で考えろ馬鹿男鹿!」

「は、おい!古市?!」

そう言うなり古市は走り出した。俺も急いで後を追う。

「古市待てよ!」

「待てって言われて待つやつがいるか!ついてくんな!!」

そんな鬼ごっこが数分続いた後、足は速いが体力の無い古市のスピードが落ちて、俺が追いついた。不良に追われることが多いから、自然と足は速くなったみたいだが、体力はつかなかったようだ。

「はぁ、っ…はぁ。」

「っ、何で、逃げんだよ。」

もう逃がすまい、と古市の腕を掴む。

「うっせぇ、っ、バーカ…はぁ、お前なんか、どっか行け…。」

古市は俺の方を振り向かず、膝に片手をついて息を整えている。

「はぁ?なんでだよ?」

「だから、それくらい、自分で考えろっつってんだろ!」

息が整ってきた古市は、俺の手を振りほどこうと腕を振った。が、それだけで振りほどけるほど弱い力では掴んでいない。

「…何で泣いてんだよ。」

その勢いのまま、こちらを振り向いた古市の頬には涙が伝っていた。

「泣いてねぇ!」

「泣いてんだろ。」

「うるせぇな!男鹿なんかどっか行けって言っただろ…!」

「こんなお前放って、どっか行けるわけないだろ。」

掴んでいた腕を引いて、抱きしめた。

「っ、止めろよ!お前だって本当は、邦枝先輩みたいな可愛い女の子がいいんだろ!!」

喚きながら肩を押してくる手首を片方掴み、残った片手で腰を支える。

「なんでそう思うんだ。」

俺はこんなにお前のことが、好きなのに。
そう暗に言うと、古市は俺を睨みつけながら言った。

「昨日、邦枝先輩と一緒にいただろ。」

「は?邦枝?…あー、まぁいたっちゃいた…か?」

と言っても、一瞬のことだが。まさかと思うが、

「嘘つくな!俺は見たんだからな!お前が邦枝先輩と楽しそうに喋ってるの!」

どうやらそのまさからしい。たったのあの一瞬に居合わせるとは、なんてタイミングの悪い奴なんだ。そう思ってはぁ、とため息をついたのが間違いだった。

「っ、もう、いいだろ!俺なんか構わないで、さっさと邦枝先輩のとこに行けよ!」

その言葉にプツンと、俺の中の何かが切れた。

手首を掴んでいた手を離し、今度は古市の顎を掴んで唇を奪った。
走っていたから、体は温かかったが、唇は冷たかった。

「ん、っ…。」

鼻から抜けるような甘い息が漏れたところで、離してやる。

「…お前はこれでも、俺が邦枝のこと好きとか言うのか?」

「で、でも昨日二人でいただろ…。」

「あれは邦枝が勝手に話かけて来ただけだ。二人でいたわけじゃない。」

「…じゃぁ何であんなとこいたんだよ。」

まだ疑いの目を向けてくる古市に、いつもは何も入っていない鞄の中からプレゼントを取り出して、あげた。

「何これ…。」

「誕生日プレゼント。それ買うために昨日はあそこに行った。最近ずっと一緒に帰れなかったのも、それ買うため。これで満足か?」

「うん…。」

古市は頬を赤く染めて、消えそうなくらい小さな声で言った。

「…ごめん。」

「分かったならいい。」

ずっと抱きしめたままだった体を解放してやり、歩き出したら、服の裾を引っ張られた。

「ありがと!」
「おう…。」

こっちまで幸せになれそうなくらい幸せそうな笑顔で言うから、幸せだなぁなんて柄にもなく思ってしまって、そういえばまだ言っていなかったと思って、俺はこう言った。





「誕生日おめでとう。」









古市 Happy Birth Day!





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