◎三日前 姫川
先生に呼び出された、と言って古市が何処かへ行ってしまったので、珍しく放課後、教室に残っていた時、いきなり教室のドアが開いた。
放課後になってから、すでに一時間が経過している。誰だろうと思い見てみると、そこにいたのは姫川だった。
「姫川?」
「なんで疑問形なんだよ。」
姫川は自分の机まで歩いていくと、引き出しを探りだした。
「何してんだ?」
俺が声を掛けても腕を動かしたまま答えず、目的の物が見つかったのか引き出しから腕を出した。
「これ、忘れたんだよ。」
手に握られているのは、携帯だった。
「あぁ…。」
そういえば姫川はよく携帯を弄っている、気がする。あまり記憶にないが。
「お前は何してんだよ?」
「古市待ってる。」
そう答えたら、何だか哀れんだような目で見られた。
会話は終了したと思ったので机に伏せたら、教室を出ようとしていた姫川に、声を掛けられた。
「男鹿。」
「あぁ?」
「恋人の誕生日プレゼントは、金だ。」
「はぁ?」
いきなり意味不明なことを言い出した姫川に、クエスチョンマークを飛ばしていたら
「神崎とか夏目に聞いて回ってんだろ?」
と言われた。
「あぁ…。」
そういえばそんなことも聞いた。あまりに参考にならなかったので、忘れていたが。
「なんで俺に聞かねぇんだよ。」
「…。」
こんなまともじゃない奴らに聞いても、まともな答えが返ってくるわけがないことに気づいたから、と言ったら怒るだろうか。
「それにしても、男鹿に恋人がいたとはな。」
俺が答えなかったことに、特に気にした様子もなく、姫川はニヤニヤして言った。
「いちゃ悪いかよ。」
「いや?まぁ、恋人は大切にしろよな。」
「当たり前だろ。」
姫川からそんな普通の言葉が出てくるとは思わず、少なからず驚いた。
「じゃあな。」
そう言って姫川は、今度こそ教室を出ていった。
古市の誕生日まで
あと三日。
(あー、早く古市の顔見てぇ。)