◎五日前 夏目


突然アイスが食べたくなり、コンビニへ行こうとしたら「ついでにトイレットペーパーも買ってきて。」と母親から頼まれ、めんどくさい、と断ったら姉からパンチを一発もらい、仕方なくスーパーに行った。



スーパーでどのトイレットペーパーがいいのか分からず悩んでいると、店員らしき人物が来た。

「あれ、男鹿ちゃん?」

品物の補充をしようとしたのか、その店員はトイレットペーパーや芳香剤などの入った段ボールを運んでいた。顔は見たことがあるが、名前が思い出せない。いつもは古市に聞いているのだが、今はここにいない。よく見たらそいつの胸元に『夏目』と書かれたネームプレートが付けられていた。
そうだ、夏目だ。

「何か用か?」

「こんなとこにいなさそうな知り合いがいたから、声掛けてみただけだよ。こんなとこで何してんの?」

「お袋に頼まれたから、買いに来ただけだ。」

これ、と言ってトイレットペーパーを指差した。

「へ〜、大変だね〜。」

まるで他人事のように(実際他人なのだから当たり前なのだが)言ってのけた夏目に、少しばかりイラついたが、ここで俺は閃いた。

こいつに誕生日プレゼントについて、意見を聞いてみるのはどうだろうか?
思いついたら即実行だ。

「おい。」

「何?」

「お前なら恋人の誕生日に、何をプレゼントする?」

俺がそう聞いたら、夏目は口を開け数秒ポカンとした後、顔を手で覆い、肩を震わせ始めた。

「おい…大丈夫か?」

何だか心配になり声を掛けると、夏目が盛大に吹き出した。

「あはははは!男鹿ちゃん、が、そんなこと…はは!」

「わ、笑ってんじゃねぇ!」

夏目はその後数分ほど笑いが止まらず、笑いが止まる頃には俺の機嫌は最悪だった。

「あー、疲れた。」

「…。」

「男鹿ちゃん、ごめんって〜。不機嫌にならないでよ。」

「なるだろ!こっちは真剣に聞いてるっつーのに!」

「だからごめんって。で、その恋人の誕生日プレゼント、だっけ?」

また夏目が笑い出しそうだったので、睨みつけたら今度は笑わなかった。

「う〜ん、俺はやっぱ愛をあげるべきだと思うね。」

「愛?」

「そう、愛だよ愛。というわけで男鹿ちゃん。これを一つ買ってかない?」

そう言って夏目が出してきたのは、コ●ドームだった。

「てめぇ、喧嘩売ってんのか…?」

あまりにひどいので、胸倉を掴んでしまった。

「ストップストップ、そんなに怒らないでよ〜。」

しかし夏目は怖がる様子もなく、飄々としている。舌打ちを一つしてから、手を離した。

「だってさ、恋人でしょ?だったら愛を深めるのも、大切じゃない?」

別に使わないわけではないが、それを誕生日プレゼントにするのはどうかと思う。

「じゃぁはい!これ買ってね!」

俺が黙っていると、それを肯定と受け取ったらしく俺に渡してきた。さらにレジまで連れていかれ、そのまま買わされてしまった。

「毎度ありがとうございました〜。」

まぁ使わないわけではないから、いいか。










古市の誕生日まで
あと五日。





(あ、アイス買い忘れた。)




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