※WJ17号ネタバレ含む
「―というわけだ。」
女共の部屋から戻って、すぐに古市に経緯を話した。それぞれのベッドに座って、向かい合うようにしていた。
そして、何故か分からないが明日の自由時間に邦枝と、哀場とか言うやつと、一緒に食事に行かなければいけなくなったことを言うと、古市は俯いたまま動かなかった。
古市のいつもと違う雰囲気に、口を動かすことも体を動かすことも出来ずにいると、古市が顔を上げた。
「良かったじゃん。」
第一声はこれだった。その言葉に、楽しみにしていた自由時間が潰れたのに何が良かったのか、苛立った俺は古市を睨みつけた。
「はぁ?」
古市はこちらを見ずに、目線を少し下にして話しているので、表情があまり読めない。
「哀場とか言うやつはいても、邦枝先輩と一緒に食事に行けんだろ?もしかしたら、告白とかされちゃうかもな。」
「おい、ふるい」
「このクラスで、修旅でカップル完成とか、お前と邦枝先輩くらいしか無理だろ。いやー、めでたいね。お前にも遂に彼女かー。」
「古市。」
俺の言葉を無視して話しつづける古市に、静かに呼び掛ければ、よく動いていた口はぴたりと止まった。
「お前はそれでいいのかよ。俺が邦枝に告白されて、付き合うことになっても。」
「…良いに決まってんだろ。」
未だにこちらと視線を合わせない古市に、俺は立ち上がって古市の顎を掴んで、無理矢理視線を合わせた。
「本気でそう思ってんなら、ちゃんと目見ろ。」
「…。」
右に左に視線をさ迷わせた後、恐る恐るといったようにようやく俺と視線を合わせた。
目の端には、少しだけ涙が浮かんでいた。
「自分で言って自分で傷ついてんじゃねーよ、アホ市。」
「だって…、いつまでも男同士で付き合っていけるなんて、無条件で信じられないだろ…。お前だって本当は邦枝先輩とかヒルダさんとかと、付き合いたいとか思ってんのかな、とか考えんだよ…。」
うじうじと煩い口を己の口で塞いでから、すぐ近くで古市の目を覗き込んだ。
「誰が、いつ、邦枝とかヒルダがいいなんつったんだよ。俺はお前以外と、一生一緒にいるつもりはない。」
そう言ったら、古市の顔はみるみる真っ赤になって、まるで茹蛸のようになった。
「おま…よくそんなこと、真顔で言えるな…。つか一生って、一生一緒にいるつもりかよ。」
「当たり前だろ。」
古市はまた視線を外したが、再び俺と合わせると今度は強い意志を持った目で言った。
「放したら、許さねぇからな。」
「お前が放れるっつったって、放してやんねーよ。」
もう一度、今度は先程よりも長くキスをして、俺達はベッドへと倒れ込んだ。
―――――
古市はきっと身を引く!そして他のクラスメートと一緒に遊べばいい!それを見た男鹿が嫉妬すればいい!
修学旅行って夢が膨らむ。