廊下から人が上ってくる音が聞こえた。男鹿だ。分かってはいるけど、動けない、動きたくない。部屋に入ってきた男鹿が寝転んだまま動かない私を見て、ベッドに近づいてきた。
「大丈夫か?」
「…無理。」
「薬と水持ってきたぞ。なんか食ったか?」
「…まだ。」
「何食いたい?」
「暖かいもの。」
「ちょっと待ってろ。」
そう言って、再び降りていった。お母さんが作ってくれた湯たんぽを、抱え込むようにしてお腹に当てる。
すると、男鹿が上ってくる音が聞こえてきた。
「おばさんが作ってくれたぞ。食えるか?」
ちら、と横目で見ると暖かいお粥を持っていた。
あまりお腹は空いていないが、食べないと薬は飲めない。
「食べる。」
起き上がって毛布を羽織って、床に座る。もちろんクッションも忘れずに。
食べたら少しだけ暖かくなったが、やはりまだ痛い。薬を飲んで、早急に布団に戻った。
男鹿は何もせず、ただ私の動きを見ているだけだった。いつもなら「何見てんだよ。」とか言ってやるところだが、今日はそんな元気はない。
壁の方を向いて布団を目深に被った。痛いのにも波があって、本当に痛い時は悲惨な顔をしているからそれを見られないようにするためだ。
「…男鹿。」
「なんだ?」
「なんかごめん、色々…。今日遊べないし、あんまりお腹痛くなったりとかないから、たまになると構ってちゃんみたいで…。」
小声で、布団もあったから、もしかしたら聞き取れていないかもしれない。それならそれでいい。このまま寝たい。
しかし男鹿には聞こえたようで、ベッドの端に少し腰掛けて私の頭をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫だっつの。だからゆっくり休め。つーかお前はもうちょっと俺を頼れ。」
「ありがと…。」
男鹿の言葉と、頭を叩くリズムが私を安心させた。
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shortに載せようかと思ったけど、始まりも終わりも微妙だから止めました。
設定は同じですが、続きじゃないです。