男鹿の家に泊まった日の翌朝。窓から差し込む光で朝を迎えたことに気づいた俺は、着替えるべく立ち上がろうとした。学校帰りに男鹿の家に寄ったら、ゲームに熱中しすぎてそのまま泊まることになってしまった。昨日の疲れは残っているが、今日は金曜日だ。学校へ行かなくてはならない。携帯を開いて時間を見れば、まだ時間はある。学校帰りにそのまま寄ったので、制服はある。こんなことは少なくないので、ワイシャツやら下着などの替えは一通り揃っている。これならもう一眠り出来るだろうと考えなおした俺は、再び眠るためにベッドへと戻―――ろうとしたところであることに気づいた。
布団から少しだけ見える髪が、銀髪であることに。
男鹿って銀髪のウィッグなんて持ってたっけ?
そう考えたのは古市の本能で感じとった危険信号かもしれないし、あるいはただの現実逃避かもしれない。
その銀髪の正体を探るため、手を伸ばして、さらに驚いた。
お世辞にも男らしいとは思えなかった自身の腕が、色黒でゴツゴツしていた。
わー、俺の腕ってこんなに男らしかったっけー?
最後の望みを捨てられず、現実逃避している古市だった。しかし次の瞬間、決定的なことが起こった。
「ん…。古市、起きてんのか…?」
そう言って顔をあげたのは―
俺だった。
正真正銘、古市貴之だ。毎朝鏡を見てるんだから、顔を間違えるわけがない。いや、問題はそこじゃない。鏡を見てるわけでもないのに、なんで俺がそこにいるのかということだ。しかし起き上がった俺の体は、俺を見て目を見開いた。
「古市…?いや、俺?」
「俺は古市だ。お前は男鹿…だよな…?」
「そうだ。え、何だよこれ。どういうことだ、説明しろ!」
目の前で俺の顔をした男鹿が、物凄い勢いで肩を掴んで揺すってきた。
「ちょ、俺も分かんないんだって!」
「じゃあどういうことだよ!」
分かんないっつってんだろ!と言い争っていると、突然部屋のドアが開いた。入ってきたのは、ヒルダさんだった。
「む、貴様ら起きたのか。」
「ヒルダ!」「ヒルダさん!」
一瞬、不快そうな表情をしたヒルダさんだったが、何かを思い出したように言った。
「…あぁ、そうか。今貴様らは入れ替わっているんだったな。」
「「はあああああ?!」」
「説明が遅れたな。貴様らが寝ている間に坊ちゃまが魔界の玩具で遊んでいて、貴様らが入れ替わってしまったらしい。」
「どんな玩具なんですか…?」
「うむ。坊ちゃまと指定された者が入れ代わるという玩具なのだが、それが欠陥品だったらしく、近くにいた貴様らが入れ代わってしまったのだ。入れ代わりは一日で元に戻るとなっているが、なにぶん欠陥品だからな、どうなるかは分からない。」
ヒルダさんはそう言うと、べる坊を抱き上げて部屋を出ていこうとした。
「ちょ、ヒルダさん?!何さりげなく出ていこうとしてるんですか!」
「…その顔でそう呼ぶな。虫ずが走る。」
「はい?!」
「貴様は今、見た目だけは男鹿なのだぞ。それを忘れるな。」
いきなり神妙そうな表情でそう告げた。
そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。
「あ!ヒルダさん!」
―――――
着地点が行方不明になりました。