一万打リクエスト
腕の中の温もり
あれから一週間。


古市が家から出て来なくなった。


電話を掛けても、メールをしても一向に返事がない。家から出て来ないと言うことは、もちろん学校にも行っていないわけで。古市だって休むときくらいあるが、さすがに一週間連続というのには皆驚いていた。
あれがあった後だからか、邦枝が責任を感じているようで古市の様子を聞いてきたが、一週間会っていないのは俺も同じだから、答えられることはなかった。

一週間経った今日、古市の家に行ってみた。
古市が出て来ないのは分かっていたけれど、インターホンを押す。

「あら、男鹿君。ごめんなさいね、貴之まだ出てこなくて…。」

出て来たのは古市の母親だった。前に見た時よりも、やつれて隈がひどくなっている気がした。
それを見て、古市を叱ってやりたくなった。
古市の家族も心配しているし、学校の奴らもなんだかんだ言って心配しているはずだ。それに何より、俺に心配を掛けたことをあいつは分かっているのだろうか。

「…おばさん、古市は部屋にいんのか。」

「えぇ、いると思うわよ。」

「ちょっとお邪魔します。」

一言言って、古市の家に入る。久しぶりに古市の家に入った気がする。
「おい、古市。何してんだ、早く出てこい。」

古市の部屋まで行き声を掛けてみるが、返事はない。

「おい!古市!」

今度はドアを叩きながら言ってみた。何度挑戦しても一向に変化が見られない。

「…おばさん、扉壊れたらちゃんと修理費は出すから。」

後ろから俺の様子を見ていた古市の母親に一言断りを入れてから、ドアノブに手を掛けありったけの力で扉を押した。



扉は聞いたことのない音をたてて開いた。

部屋の中は真っ暗で、古市はその中でベッドに寄り掛かって座っていた。明らかにやつれていて、以前のような元気な古市の姿はそこにはなかった。古市に近付くと、右手に血の付いたカッターを持っていて、左手首にはそのカッターで切ったであろう傷がいくつもあった。止血はしなかったらしく、流れて固まってしまっている血がいくつもあった。

「古市!」

名前を呼べば、緩慢な動きでこちらを振り返った。

「お…が…?」

目は虚ろで一体どこを見ているのか分からない。けれど俺の名前を呼んだということは、少なくとも俺は認知されているのだろう。
古市に近付くと、さっきまでの緩慢な動きは何処へ行ったのか、古市がカッターを振り回した。

「来るなよ…!どうせみんなに俺の気持ちなんて分かるわけないんだ!近付くな…!」

「貴之…。」

古市の母親は、息子のいつもとは全く違う様子に茫然としていた。

「おばさん、とりあえず救急箱持ってきてください。あと古市は俺がどうにかします。」

おばさんにそう言えば、はっとしたように階段を駆け降りていった。
俺は古市に近づき、しゃがもうとした。瞬間、腕に痛みが走った。

「っ!」

それを見た古市が一瞬動きを止めたのを見逃さずに、腕を掴んでカッターを取り上げた。

「おが…血が…!」

「何やってんだよ。お前のせいでお袋さんもやつれちまってるし、学校の奴らも心配してんだぞ。それにこの俺様にまで心配かけやがって。どういうことか分かってんのか?」

そう言うと、古市は目を見張った。

「何で?何で男鹿が心配すんの…?だって先に突き放したのは、男鹿だろ…?!」

「何言ってんだよ、心配すんのなんか当たり前だろ。つーか突き放したとか意味分かんねぇし。」
「この間、邦枝先輩と話した時、男鹿は邦枝先輩のこと庇っただろ!本当は俺のこと、キモいとか思ってんだろ?!俺みたいな奴のことなんて…!手ぇ、離せよ!」

俺の手から逃れようと抵抗してくるが、所詮古市の力だ。俺に敵うわけがない。

「古市、落ち着け。俺はここにいるから。」

「男…鹿?」

だから古市の腕を引っ張り、抱きしめながらそう言ってやったら、古市の動きが止まった。

「何にそんなに怯えてんだよ。」

古市の背中を叩きながら、落ち着かせてやるとぽつぽつと話しだした。

「…邦枝先輩と、俺、好きな人一緒なんだ。それ分かった時に、先輩がフェアにいきましょう、って言ってきて、俺男なのに…。フェアなんて無理に決まってんのに…。」

古市の目から涙が落ちて、俺のワイシャツに染みが出来た。

「きっと先輩が告白したら、そいつオーケーしちゃうんだ。馬鹿でアホで単純だから…。もう一緒にいられなくて、先輩といるとこなんて見たら、きっと、堪えられないから、だから、それなら死んだ方がマシだって…。そしたら、先輩もそいつも、幸せになれると、思うんだ。」

そこまで言うと、古市が肩を震わせて泣き出した。

「…そいつの気持ちはどうなるんだよ。」

「…え?」

古市がわけが分からない、とでも言うように顔を上げてこちらを見る。古市の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

「だから、そいつはお前のことが好きかもしれないだろ。それなのに、勝手にお前に死なれちゃ困るだろうが。つーか、俺が古市以外の奴、選ぶとでも思ってんのかよ。」

「は?」

今度こそ何言ってんだこいつ、という目で見られた。ついでに俺からも離れようとしたので、また腕の中に閉じ込めた。

「俺男鹿だなんて一言も言ってねぇけど…?」

「は?何言ってんだ、古市が俺以外好きになるわけないだろ。俺が古市好きなんだから。」

「何言って…。」

「だから、俺も古市のことが好きだっつってんだろ!アホ古市!」

「急展開すぎて頭がついてかない…。」

その言葉と共に古市の全体重が俺にかけられた。

「それ本当?嘘じゃない?」

「たりめーだろ。何で嘘つかなきゃいけねぇんだよ。」

「邦枝先輩選ばなくて後悔しない?」

「するわけねぇ。お前こそ後悔しても、離してやんねぇからな。」

「男鹿…!」

古市の腕が俺の背中に回った。




その後、おばさんが持ってきてくれた救急箱で古市の手首を消毒してやった。

「いって〜!もっと優しくやれよ!」

「うるせぇ!俺達に心配かけた分だと思え!」

「…ごめん。心配、してくれたんだな。」

古市は少しだけ俯いて言った。

「当たり前だろ。後でおばさん達にも謝れよ。あと石矢魔の奴らにも。あんな奴らでも、お前のこと心配してたんだからな。」

「…ん。」

「今度から何かあったら、全部俺に言えよ。」

「分かった…。つーか、この間のはお前がいけないんだろ!お前が邦枝先輩庇ったりするから…!」

俯いていたかと思えば、突然喚きだした。

「は?別に庇ってねぇけど。」

「嘘つけ!俺には冷たかったくせに!」

今日の古市は感情の起伏が激しいようだ。

「冷たくねぇっつーの。」

「冷たかった!絶対冷たかった!」

「はいはい、分かったから落ち着けって。」

喚く古市を落ち着かせるために、抱きしめてやる。

「…それ、ずるい。」

「何が?」

「すぐ抱きしめるとこ!ほだされんだろ馬鹿!」

「じゃあ止めるか?」

「…だめ。」

「じゃあ、ほだされとけ。」







(男鹿だけかっこよくてずるい。)
(古市ってこんな可愛かったか?)














あーる様、長らくお待たせしてすみませんした!orz三もっと病んデレっぽくしたかったんですが、病んデレは書けないことに気づきました。とりあえず私らしく、最後は甘くいかせてもらいました((
ご希望に添えなければ書き直しますので!!
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