一万打リクエスト
いつもと違う昼下がり
昼休み。男鹿とじゃんけんで負けて、二人分の飲み物を自販機に買いに行くことになった。飲み物代を預かり自販機へと向かう。

自販機の前に聖石矢魔の女子がいたので、その子の後ろに並んでいると、その女子がお金を落としてしまった。
俺の目の前に落ちた十円玉を渡そうと顔をあげたら

「あれ、古市君?」

声を掛けられた。





「そういえば聖石矢魔だったね。」

俺の前に自販機に並んでいた女子は、中学の時のクラスメイトであり、元カノだった。

「まぁね。」

当時、受験シーズンに入り、元々二人とも聖石矢魔志望だったこともあって、二人で一緒に行けたらいいね。と話していた。一緒に合格発表を見に行き、二人の数字を見つけた時は大喜びした。春から憧れの放課後デートとか出来るのかなぁ、と未来に思いを馳せていた。
しかし春休みに入り、彼女から別れを切り出され、更に男鹿の喧嘩に巻き込まれ、合格まで取り消され散々だった。

「古市君は、石矢魔だよね?」

「そうだよ。」

「まだ男鹿君と一緒にいるんだね。」

「別にそんなことは…。」

ない、と続けようとして、彼女の何か含んだ言い方に引っ掛かった。口を止めて顔を伺うと、どこか遠くを見つめて彼女は言った。

「こんなこと言っても信じてもらえないと思うけど、別れたとき、まだ古市君のこと好きだったんだよ?」

「え、じゃあ何で…。」

「あのね―」





「…遅い。」

じゃんけんで負けた古市が飲み物を買いに行って、十分が経っていた。屋上から自販機まで距離があるとは言っても、そこまで時間が掛かるはずない―わけないのだが、不良に絡まれたくない一心で早く帰ってくる男鹿は、大抵五分足らずで帰ってこれてしまうのである―もしかして、また俺絡みで不良に絡まれているのだろうか。

「仕方ねぇ。迎えに行くか、べる坊。」

「ダッ!」

べる坊に問い掛けたら、元気良く手を挙げた。





「そっか、そんなことがあったんだ。」

「うん。最初は、ただの友達に何でそんなこと言われなきゃいけないんだろうって思ったんだけど、男鹿君が古市君のこと見る目を見て、負けたなぁって思ったんだ。」

俺が無言でいると、彼女はさらに続けた。

「男鹿君とは、付き合ってるの?」

「いやいや!そんなわけないじゃん!」

全力で否定したら、彼女は立ち上がってこう言った。

「そっか。でも、伝えたいことはちゃんと伝えないと後悔するよ?」

「そうだね…。」

「古市君と話せて良かった。それじゃあね。」

彼女はそう言って、振り返らず去っていった。





自販機へ行くと、見慣れた銀髪がベンチに座っているのが見えた。
古市のくせに、俺様を待たせて何してやがる。
そう声を掛けようとしたら、古市の隣に俺が唯一覚えている中学の時、同じクラスだった女子がいた。そいつは古市の初めての彼女だった。そして、この俺が土下座をしてまで頼み込んだ相手だった。
何でこいつが、と思ったが、よく見たら聖石矢魔の制服を着ていた。
ちょうど二人の死角になる位置に身を潜め、二人の会話を聞いた。

『―まだ、古市君のこと好きだったんだよ?』

『え、じゃあ何で…。』

『あのね、付き合い始めて三ヶ月くらいの時かな。男鹿君が私のとこに来て『古市と別れてくれ。』って、土下座して頼み込まれたの。何でって思ったんだけど、その後男鹿君のこと見てたら、いつも古市君のとこ見てることが分かったんだ。それで別れてって言ったの。』

『そ、うだったんだ。』
『うん、あ、これ古市君には言わないでって言われてたんだった。』
『ええ!言って良かったの?』

『まあ時効ってことで。』

笑い声が聞こえた。

『そっか、そんなことがあったんだ。』

『うん。最初は、ただの友達に何でそんなこと言われなきゃいけないんだろうって思ったんだけど、男鹿君が古市君のこと見る目を見て、負けたなぁって思ったんだ。』

数秒間、どちらも何も言わなかった。

『男鹿君とは、付き合ってるの?』

『いやいや!そんなわけないじゃん!』

『そっか。でも、伝えたいことはちゃんと伝えないと後悔するよ?』

『そうだね…。』

『古市君と話せて良かった。それじゃあね。』

誰かが歩いていく音がした。古市はベンチに座ったままで、女は背を向けて歩いていくのが見えた。





途中から、視界の隅でちらちら見えていた黒髪に声を掛けた。

「で、男鹿。今の話は本当なわけ?」

黒髪の頭が揺れて、逃げようとしたのが見えたので、立ち上がり、男鹿の背中を膝で押した。

「おわっ!」

そうしたら、男鹿は四つん這いになってこちらを見た。その顔が、ほんのり赤く染まっているのが見えた。

「何逃げてんだよ。」

「別に…。」

男鹿が四つん這いの状態から体を起こし、立ち上がった。

「で、あれ本当なわけ?」

「…。」

無言を肯定と受け取り、話を進める。

「ったく、お前はどんだけ俺の恋路を邪魔すれば済むわけ?」

「すまん…。」

珍しく男鹿が素直に謝った。

「デートに行けば大量の不良連れてくるし」

「すまん。」

「ナンパに行けばいきなり呼び出すし」

「すまん。」

「お前といると、本当ろくなことない。」

俺がそう言ったら、一瞬傷ついた表情を見せたが、すぐにいつもの表情に戻った。

「わりぃ…。」

「だから、お前が責任持って俺を幸せにしろよな。」

今度は驚いた表情をして、その表情が変わることはなく、俺を見た。

「古市、お前どういう意味で言ってんだ…。」

「そのまんまの意味だよ。」

固まったまま動かない男鹿の手を引っ張った。

「まだ昼飯食ってねぇし、さっさと屋上行こうぜ。」

「古市。」

なんだよ、と言おうとしたら、握っていた男鹿の指が俺の指に絡まった。

「こっちがいい。」

「…馬鹿じゃねーの。」

嬉しそうに言う男鹿に、顔が赤くなるのが分かって顔を背けた。多分男鹿にはバレバレなんだろうけど。






いつもと違う昼下がり



(何だあいつら、ホモか)

(神崎さん!)

(面白いからいいんじゃない?)






九夜猫様、長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
古市の元カノが周囲を巻き込んで大騒動というリクエストでしたが、あの…全く周囲を巻き込んでいません。←
男鹿がわたわたしているだけでした。表現出来ていませんが((
リクエストに沿えていない感マックスで本当にすみません!
書き直しはいつでも受け付けます!
リクエストしてくださった、九夜猫様のみお持ち帰り可能です。


追記:男鹿古+東邦神姫etc.と書いてありましたが、どう見ても東邦神姫が絡んでいないので、表記を変えさせていただきました。

2012.0402 平林
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