07
いつもだったらさっさと帰るのだがどうにも帰る気が起きないので教室に留まっていた。時計の指す時刻は、四時を回るところだった。自分の机に座り、携帯を取り出した。何かしようと思ったわけではないが携帯は暇潰しに最適だ。アプリを起動させ、ゲームをやる。パズルゲームだ。
昔から男鹿は頭を使うパズルゲームが苦手で、格ゲーやRPGなど感覚で出来るゲームしかやっていなかった。だから男鹿の家に行ってゲームをするときは、対戦ゲームくらいしかやらない。あぁ、もう。何で涙なんか出てくるんだよ。携帯の画面が滲んでよく見えない。電源ボタンを押し、待受画面に戻す。せっかく高得点が出ていたのにもったいない。
何をしても男鹿が思い出されるなんて、俺は相当重症らしい。
涙を拭うことすら面倒臭くなって、携帯を机の上に置いて座っていた。
窓から差す光に黒みがかかってきた時、教室の扉が開いた。
「あれ、古市君まだいたの?」
夏目さんだった。どうしてこの人は、こんな時にばかり現れるのだろう。
「夏目さん…。」
「どうしたの?何かあった?」
夏目さんが優しく聞いてくるものだから、今起こったことを全て話してしまった。
「そっかぁ、辛かったね。」
夏目さんは何も言わず、静かに聞いてくれていた。
俺の気持ちを言ってしまったからだろうか、何だか夏目さんには言えてしまえる気がする。
「そんなに辛いなら…俺にすればいいじゃん。」
「へ?」
「あれ、まさかこの間の宣戦布告忘れたわけじゃないよね?」
「忘れるわけないじゃないですか…。」
そのせいで教室に入るのに、どれだけ緊張したことか。なんて今の雰囲気では場違いな感想だろう。
「だったら俺にしちゃいなよ。」
「無理ですよ、俺男鹿の事が好きですから。」
「だって古市君辛いんでしょ?だったら叶わない今の恋に行くよりは、新しい恋に行った方がいいと思わない?」
確かに今の恋は叶うことはない、しかし改めて言われると中々きついものがある。
「…でも、他の人が好きなのに夏目さんに行くのは最低ですから。」
「別に最低じゃないよ。それに俺のこと、好きにさせればいいだけの話だし。どうかな、悪い話じゃないと思うけど。」
夏目さんに言われて、少しだけ心が揺らいだ。
「別に古市君が男鹿ちゃんのこと忘れられなかったら、別れればいいんだし。」
座って話を聞いてくれていた夏目さんが立ち上がって、俺の目の前に立った。
「俺じゃダメ?」
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