短編 | ナノ

君の隣、僕の隣

何もしない。何も言わない。ただそこにいるだけで安心出来る。そんな相手を見つけることはきっと容易いことではないのだろう。
それでも俺はそんな相手を偶然見つけて、今日まで奇跡的に一緒にいた。一度は離れる運命だったにも関わらず、それにすら抗って。意図的ではなかったが、結果的には俺の行動がそいつの未来を潰してしまったことは変えようのない事実なのだ。だからこれは、それを笑って許してくれたそいつの優しさの上に胡座をかいていた俺に対する罰なのだろう。

「は。」

「聞こえなかったか?俺、彼女出来たんだ。」

俺はゲームをしていて、古市はベッドの上で帰りの途中で買ってきた雑誌を広げて読んでいた時のことだった。あと二発ほど蹴りを決めれば勝つことが出来る。そんな場面でいきなり話しかけられ、正直聞く気はなかった。しかし聞こえてきた台詞に、もう少しで勝てそうという考えは消え失せ、俺の小さな脳味噌は一気にそのことだけになった。
古市に彼女が出来た。
別段おかしなことではなく、むしろ中学まではいないことの方が珍しかった。悉く邪魔してやっても、俺が関わるデメリット以上に古市といるメリットを
望む女子は多かった。だから高校に来て、古市の大好きな女子が皆無。いても彼氏を作らないときた。さらに高校を移動してからは、古市など眼中にないどころかいじりの対象。これならば、高校卒業までの間に彼女が出来ることはないだろうと踏んでいた。だと言うのに、彼女が出来た?こいつは何を言っているんだ?理解出来ず口から零れた言葉は、息と問いかけの間ほどの小さなものだった。それを問いかけだと判断した古市は、丁寧にもう一度言い直してくれた。

「この間の、ティッシュの時。」

彼女が出来たと言ってからまともに喋らない俺をどう思ったのか分からないが、沈黙を先に破ったのは古市の方だった。

「あ?おう。」

常に使わない頭を珍しく使っていると、古市の言葉への反応が少し遅れた。色々考えるよりも、古市の話を聞くことにした俺は、負けたことを告げる画面から目を反らしコントローラーを置き、古市へと視線を移した。

「あの少し前から仲良かった子でさ。中学一緒だったんだけど、お前分かんないだろうな。俺も最初分かんなかったし。てか、クラス違ったしな。でさ、ティッシュのある前から俺、聖の図書館とか行って時間潰してたんだ。ん?そんなの、お前が先輩達と仲良さそうにしてたからだよ。いや、普通に仲良さそうだったからな?んで、その時俺けっこう弱ってたからさ。恥ずかしい話だけど、ちょっと、ほんとに一回とかだけだけど、泣いたりしてたんだ。誰にも分からないようにしてたつもりだったけど、その子気付いたみたいで。でも、からかったり、馬鹿にしたり、されると思ったのに、そういうのしてこなかったんだ。手握って、我慢しなくていいって言ってくれて。ずっと男鹿と二人でさ、そりゃ女の子は好きだけど特別になる子っていなかったんだよな。男鹿といると彼女といる時間もそんな取れないし、男鹿といれば楽しかったし。でも今は、男鹿と二人だけじゃない。それに俺、その子を特別にしたいって思ったんだ。で、告白したらオーケー貰えた。」

長い話は嫌いだが、古市の話ならいつまでも聞いていられる。優しい声で、俺が理解出来るまで丁寧に説明してくれるからだ。何がいけなくて何がいいのか、馬鹿な俺にも分かるように。
けれど今はそんな古市が憎かった。理解してしまった。理解させられてしまった。
古市の中でそいつはそれだけの価値を持ち、俺はもういらないと。そう言われたのだ。

「長々と悪かったな。じゃ、俺帰るわ。」

立ち上がった古市の手を掴もうと腕を伸ばしたが、その手を掴むことはなかった。古市が今まで見てきた中で、一番優しく笑ったから。
それは、傷ついた心を誰にも見せないようにするための、古市の自己防衛だと俺は知っている。

「じゃあな。」

そう言って古市は部屋を出た。
宙に浮かんだままの腕を下ろし、握り拳を作ってそれを床に叩きつけた。
心臓が握り潰されたかのように悲鳴を上げている。

ずっと一緒にいると信じて疑わなかった。周りに人がいようといなかろうと俺達だけは変わらないと思っていた。気づいたら手を伸ばしても届かないくらい遠いところにいた。





ーーーーー

久しぶりにおがふる書きました。古市の胸中を思いながら書いていたら、びっくりするくらい古市の台詞長くなりました。古市パニックは読み込んでから書きたいと思ってたんですけど、おがふる充が間近に迫ったと思ったら居ても立ってもいられず書いてしまいました。
こんなのじゃなくて、もっと幸せなおがふるを書く予定だったんですけど、気づいたら全力で脱線してて書いた本人が一番驚いてます。


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