短編 | ナノ


そして冒頭に戻る。

「それじゃあ、よろしくお願いします。」

「あ、はい。」

男鹿さんのお母さんが頭を下げながら部屋を出て行った。部屋には、俺と辰巳君の二人が残された。
ほのかや母さんの話から想像はしていたが、これ程目付きが悪いとは思わなかった。
あぁ、俺は生きて帰れるだろうか…。
俺がそんなことを考えている間に、辰巳君はベッドに寝転んで漫画を読み始めてしまった。

「ちょ、辰巳君?!」

「何?」

ちら、とこちらを見る視線が鋭くて尻込みしてしまう。が、ここで負けたら終わりだ!バイト代も、大学生に払うにしては高い金額だったし!それにいくら強いと言われても、たかが中学生だ。きっと大丈夫!
よし、と覚悟を決めた瞬間辰巳君と目が合った。

「あ、えーっと…勉強、しない?」

しかし俺の覚悟は、辰巳君の視線により打ち砕かれた。あぁ、なんて儚い俺の覚悟…。

「やだ。どうせ出来ねぇし。」

ごろ、と寝返りを打って、背を向けられてしまった。
その態度にイラッとした。わざわざ家まで出向き教えに来てやったのに、と言うのもあったが、たかが大学生の俺に高額なバイト代を支払ってまで、息子に勉強を教えてくれと言ってきた親御さんの気持ちを、全く考えていないその態度に。

「あ、おいっ!」

気付いたら漫画を取り上げていた。

「どうしてやってもないのに、出来ないとか決めつけてるの。出来ないのを教えるために俺は来てるんだよ。っていうか、俺ボランティアで来てるわけじゃないからさ。親御さんがわざわざ、たかが大学生に高額なバイト代払ってもらって来てるの俺は。その意味分かる?それだけ君のことが心配なんだよ。」

そこまで一気に言ってからハッとした。
あれ、俺やばいんじゃね?辰巳君、めっちゃ俺のこと睨んでるし!やってしまった。母さん、父さん、ほのか、ごめんなさい。俺には無理でした。
そんなことを考えて現実逃避をしていたら、辰巳君が立ち上がっていることに気づかなかった。

「…なぁ。」

「うわあ!は、はい?!」

声を掛けられて現実に引き戻される。さっきまでベッドに寝転んでいた辰巳君が、目の前に立っていた。

「あー…その、あんた、俺が怖くねぇの…?」

辰巳君は視線をさ迷わせた後、ちらりとこちらを見た。

「…怖くないよ。確かに少し目付きは悪いかもしんないけど、そんなの生れつきだろ?辰巳君がそうしたくてなったわけじゃないだろ?」

そう言ったら、辰巳君はぽかんと口を開けて動きが止まった。

「…?辰巳君?」

「…今までカテ教でやってきた奴らは、みんな俺の顔見たら怖がって、すぐ辞めてったんだ。目付きの悪さのせいで、友達だって出来たことねぇし。だから、そんなこと言われたの初めてだ。」

辰巳君は再び俯いて、口の中で何やらごにょごにょ言っていた。しかしよく聞き取れなかった。

「え、何?」

「…だから、あ、り、がとうござい…ます、って言ってんだよ!」

そう言う辰巳君の顔は真っ赤になっていて、初めて見た時とのギャップに俺が吹き出すと、辰巳君は真っ赤な顔のまま、必死にこれは違うとか部屋が暑いからとか言うものだからさらに笑ってしまい、結局勉強を始めたのはそれから三十分後のことだった。



硬中のアバレオーガと呼ばれる彼は、少し話し下手なだけの普通の中学生だった。







―――――

ええええ!!?←
全然おがふるじゃないまま終わった…。前に途中まで書いておいたのを、引っ張り出して書いたので色々変なところがあると思います…。男鹿家の近所でのポジションが謎(笑)
古市母と古市の会話が一番楽しかったので、無駄に長い。



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