彼の裏側
日が沈む頃。二人きりの教室で、私は彼に話し掛けた。
「あんた、本当は私達のこと嫌いでしょ。」
一瞬、豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻し、彼はこう言った。
「何言ってるんですか、大好きに決まってます!」
ほら。そういう作り笑顔が気に入らない。
「それはそれで気持ち悪いけど。」
そう言ったら、ひどい!と言って泣きまねを始めた。
「あんたは、他の人間なんてどうでもいいのよ。だから女子が大好きなんて嘘が平気でつけるし、男とも必要以上に関わろうとはしない。違う?」
言いたいことは言った。
試すようにそいつを見れば、口は笑みを浮かべていたが目が笑っていなかった。初めて見るその表情に、背中に冷たいものが通るような感覚がした。
「残念ですね、違います。どうでもいいなんて思ってませんよ。嫌いなだけです。」
「どういうこと…?」
足も手も、凍った様に動かない。
「他の人間は、俺と男鹿のことを引き離そうとするんです。」
彼が立ち上がって私の前に立つ。窓から差し込む夕日が逆光となって、どんな表情をしているのか分からない。
「寧々さん、貴女もですよ。男鹿のこと好きな邦枝先輩のために、俺と男鹿を引き離そうとしてますよね。」
腕が伸びて、手の平が首に当たる。反射的に体がびくりと揺れた。
「俺は男鹿が好きなんです。だから、俺と男鹿を引き離すなら、寧々さんでも容赦しませんよ。人を殺す方法なんて、いくらでもあるんですから。」
心臓が、激しく脈を打つ。瞬きが出来なくて、目が乾く。
するりと首に当たっていた手の感触が消えた。
「それじゃあまた明日!」
私の大嫌いな笑顔で、彼は教室を出て行った。
瞬きを数回して、左胸に手を当てる。鼓動は正常に脈を打っている。
今まで、彼は男鹿の腰ぎんちゃくだと思っていた。だが、その見解は間違っていたようだ。
もしかすると、男鹿よりも危険な人物かもしれない。これから注意しければいけない人物だろう。
気付けば、日は沈んでいた。
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寧々さんと古市の絡みが好きです。寧々さんは意外と人間観察とかしてたら面白い。腹黒?古市好きです。